明日の私と私の明日
さっきからずっと、同じ話を繰り返して笑っている。皆んな、他人の話の何がそんなに面白いんだろうと佳奈は内心飽き飽きしていた。
いつものように、学校帰りにファミレスに寄り、友達と青春していると自分で確認する。「うんうん」と相槌を打って話を合わせていても、その『つまらない』時間を持て余している自分が顔に出ていないかと、時々我に返る。
「なんかさぁ、数学の木村先生と保健の宮谷先生って付き合ってんだって」
情報通の茜が、度の強い眼鏡のレンズを拭きながら急に声のトーンを低くして言う。
「えっ? 木村って彼女いるよね?」
と、真里奈も話に乗っかっていく。
彼女達のこういう会話は、軽く二時間を超える。
いつも決まってこのメンバーで行動しているけど、佳奈にとって実際はこのグループに取り敢えず籍を置いているぐらいの気持ちだった。何となく学校に通い、帰りにこうやって寄り道をする。たまに、誰かの興味のないSNSの投稿に『いいね』を押して過ごす毎日に、誰も何の疑問も持っていない。特別ではない普通の日常が、佳奈達にとっては特別なのだ。
学年が上がってクラス替えがあり、仲良しだった友達が皆んなバラバラになった。休み時間に、隣の席の子に声を掛けられてからそのまま何人か集まってきて自然にグループになった。暫くは違うグループから行ったり来たりする子もいたけど、最近やっと一緒にいるメンバーが決まった。正直、誰がメンバーから抜けたのか覚えていない。誰がいてもいなくてもあまり興味がなかった。
ただ、佳奈は一人でいるのが嫌だった。正確には、一人でいると周りから見られる事が嫌だった。傍に、誰かがいればそれでよかった。
ふと店内を見渡すと、自分達とさほど変わらない年齢のスタッフが、お客さんの注文を取ったり料理を運んでいる。
レジの女の子が新人なのか、仁王立ちするおばさんに何度も頭を下げている。バイト経験のない佳奈は、何か言い返せばいいのにと、いつまでもレジ係に文句を言っているおばさんにイライラしていた。
佳奈のテーブルでは一旦話が止まり、皆んな携帯を見てずっと下を向いている。
時々、お客さんの料理ができた事を知らせるチャイムが店中に響く。その音が鳴るたびに自分が注文した物が来るのかと、皆んな振り返っては期待している姿を見て佳奈は思わず、
「パブロフの犬じゃん……」
と呟いた。
ベルの音で餌の時間を躾けられた犬が、その音を聞いただけでよだれを垂らすという、決められた規則の条件反射の実験の話だ。その犬と、店内の音で振り返る皆んなが重なり、佳奈はおかしくてため息混じりについ声が漏れてしまった。