一、前を向いてめげずに生きろ

祖父より京都の中京区に住んでいた。中学2年生になった初日、学校から帰宅した。

「ただいま」と玄関の戸を開けた。いつもなら祖母が「お帰り」と声をかけてくれるのに、その日はなかった。何やら祖父母と母の言い争う声が聞こえてきた。私は、関わるのが嫌だったので、そっと2階の勉強部屋へ行こうとした。すかさず祖父が見つけて言った。

「正夫。いいところに帰ってきた。ここに座りなさい。お前に関わる大事な話をしている」

と話し合いの中へ入れられた。母は美貌でダンスが上手で京都先斗町のダンスホールでダンサーの師範をして働いていた。そこで好きな男性が出来たらしく結婚の了承を得るための話し合いだった。母が

「おじいさん(父親)に、もう一度聞くけど、その人との結婚はどうしても認めてくれないんやな?」

と強い口調で言った。

「お前、前回離婚した時、二人の子供(私と妹)が大きくなるまで、再婚はしないと約束をしたやないか。どんなことがあっても、子供を優先して守ると言ったやないか。せめて正夫が学校を卒業するまで再婚は控えたらどうや」

「そんなこと言うても、あんな良い人、二度と出会わないし、二人の子供もちゃんと面倒見ると約束してくれているんや。あんな優しい良い人はいないわ」

「ようそんなこと言うわ。その男性を連れても来ないで、いきなり結婚したいから許して下さいはないやろ。常識外れもいいとこや。その男性がここに来て、結婚を前提にお付き合いさせて下さいと挨拶にきて、条件を話して家族と馴染んでから結婚するのが筋ではないのか」

「そのつもりでいたんや。けど今日は、その人の事業の大事な仕事が入って、一緒に来れなかったのや」

「だったら、その人を連れて来てから改めて話を聞こう。今日のところは、結婚話には反対や」

「どうして私が選んだ人を信用してくれないの?」

「信用する、しないの問題ではないやん。どんな男性かを両親や家族に紹介して、互いに認め合ってからで、いいやないか」

祖母も

「私も、そう思うわ。お前、勝手すぎるわ」

と強く言った。

「もう、おじいさん達に言うても話にならんわ。何を言うても反対されるんやから、好きにさせて貰うわ。二人の子供は、今夜、彼に会わせるので今日連れて帰ります」

「ちょっと待ちなさい。自分の都合のいいことばかり言うな。正夫。今聞いた通り、お母さんは結婚したい人にお前等を会わせるために、連れて帰ると言うている。お前はどう思う?」

祖父が私に意見を求めた。母の言い分が余りにも勝手すぎて理不尽だと思った。

「ボク。行くのいやや。お母さんと一緒には行かない。おじいちゃん、おばあちゃんのもとで一緒に暮らしたい。知らない男の人の所へなんか行きたくない」

と強く反発した。母は

「正夫。そうか。お母さんについてこないの。それなら、もう来なくてもいい。その方が気が楽や。おじいさんとおばあさんのもとで暮らしなさい。もうこれ以上話しても無駄や。私の思う通りにさせて貰うわ」

と母は怒気を込めて言い放ち、両親の反対を押し切って私と妹を祖父母に預ける形で家を飛び出した。