もう少しでスラム世界のゲートに辿り着く。
「はぁっ、はぁっ、ちくしょ、こうも暗いと距離感が掴めねぇな」
「っ、兄貴! 光が灯されてる! あそこがゲートだ!」
「いよっし、今夜中に辿り着けたな! あのゲートが俺達の新たな楽園世界だ!」
幾分か錆びた洋風の門を“ギギ”と開ければ、そのすぐ隣に軍隊の駐屯所が目に入った。光はここから灯されていたのだろう。中を見やれば軍服を着た中年の男が2人いるが、暇そうに新聞を読んでいた。ここからが勝負だ。子分を引き連れた男は先程までの勝気で喜びに溢れた表情を隠し、おどおどとした態度でその窓口に声をかける。
「あの~……」
ラジオまで流れている。余程暇なのだろう。そして二人に気づいたおっとりした軍人男性が近づいてきて、どうしたのかと尋ねた。
「あの、貴族世界での地位を失ってしまって……ここに落とされたんですけど……」
「ほぉ、可哀想になぁ。じゃぁIDカードを没収するから渡してくれるかな」
そう言われ、二人は懐に収めていたカードを取り出し、目の前の軍人に渡す。
「あの……このスラム世界ではカードは必要ないんですか?」
そんな情報など知り尽くしているが、“落とされた身分”を演じる為あえて聞く。
「そりゃぁねぇ。このスラムは誰が何をしようとどうでもいい世界だからねぇ。治安こそ悪いかもしれないが、救世主様はいるから安心していいよ」
「? 救世主、ですか?」
噂程度で知っているが、ここは知らないフリをした。
「姿を見せない救世主、っていってね。まぁ昼間にでも、ここスラムに住む連中を見てみるといい。絶望を抱えた人間なんて極僅かだからさ。皆、救世主に守られて暮らしているよ」
「え、えっと、それはどういう……」
「その御方は身分こそ隠されているが、その姿を見た者は皆極悪人だけで、でもその御方を見た連中は皆始末されてるんだよ。まぁ見た者もいるとは言うが、実際はどこの誰かだなんて特定できない御方なのさ、ま、噂だがね」