滝口が少し俯きながら声を発した。亡くなった乗客を悼むような表情だった。
「では、その親子の特徴を教えてください。名前、職業、髪型、身長、服の色、知っていることなら何でもいい」
ええと、と滝口は少し渋りながらも口を開く。
「まず、お父さんのお名前は仲山秀夫さんです。髪は……短かったです。顎と口に少しヒゲのそり残しがありました。身長はそんなに高くはなくて、私と比べて考えると一七〇センチ台の前半だと思います。ジーンズを穿いていて、茶色のジャケットを羽織(はお)ってました。水色のリュックを持っていたと思います。娘さんは黄色いコートを着てて、あと風船を一つ持ってました」
「……仲山さんね。そうですか、よくわかりました。それで仲山さんとは、ゴンドラ落下のあと、緊急電話で話をしたわけですね」
「はい。運営局に向こうから連絡が来ました。あの時は、たまたま私が運営室にいたので」
「それで、その仲山さんの様子はどうだったんですか?」
「ええと、とても落ち着いていらっしゃいました。私より何倍も怖いはずなのに、混乱する私に落ち着いて欲しいと言ってくれたくらいで……。その時確かに言ったんです」
「なんと?」
「これは観覧車を使った計画的殺人だって。史上初の観覧車ジャックだって」
「ふむ……。彼はなぜそう強く思ったんでしょうか?その理由を何か言っていましたか?」
「それなんですが、犯人から連絡があったそうです、ドリームアイのゴンドラが落ちる前に。それはドリームアイ全てのゴンドラに聞こえてるって。いずれ乗客全員で証言するからって」
「つまり、スピーカーが犯人に乗っ取られていると言いたいわけだな。特に証拠もなく」
「……私、関係ないですよね?」
「まあ、今のところはそう思います」
そう言われて、滝口はほっとした表情で胸を押さえた。一方、貝崎は席を立って出口へと向かう。滝口は慌ててその背中に声をかけた。
「あの、私はこれからどうしたらいいんですか」
「また話を伺うことになるでしょう、滝口さん。先ほどの宮内さんと同様に、ここで待機していてください。すぐに包囲網を張り、このドリームランドは世間から隔離します」
「隔離……?」
驚く滝口を横目に貝崎は食堂から出ていった。
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