森田俊、杉田綾乃、高橋裕太の取り調べがそれぞれ行われた。
省吾はエアリーを片手に森田俊を調べた。森田は痩せ型で小柄な体形だった。どちらかと言うと無口で優柔不断に見える。
「パーフェクトの塾長は優しかったの?」
「う……ええ、まぁ」
《そんな、殴る蹴る罵るなんて言えるわけないだろ》
「ペン習字習ってたって言うけど、ひらがなと漢字とカタカナくらいかな?」
「最初はひらがなばっかで、あとから漢字とか数字とか」
「そのあと、文章も書いたんだね」
「はい」
《「殺す」とか「金用意しろ」とか言えるわけないだろ》
「計算も教えてくれたの?」
「はい」
《計算て言ったってさ、一万円札を何回も数えさせられて、今思えば指紋つけさせられたってわけだよな》
「それやって、お金はいくらくらいもらったの?」
「大体、ひと月で一万位です」
《ひと月二~三十万と他にも時々一万とか三万とか……》
「録音とかはさせられなかったの?」
「させられませんでした」
《「お母さん、俺さ、事故起こしちゃってさ、人轢いちゃったんだよ。三百万用意してくれよ」ってのを録音させられたけどな》
「オレオレ詐欺のかけ子をやってたってこと?」
「だから、させられませんでした」
《何なんだよ、俺の考えてることがわかるのかよ》
「わかるよ」
「えっ?」
「三百万用意しろって録音で言わされたんだね」
「何なんですか?さっきから携帯で……あの、僕の考えていることがわかるんですか?」
「うん。霊能者とつながってるからね」
「……」
《霊能者? 誰かから聞いたことをさも知っているかのように言ってるだけだろ?》
「そう、バレたか。他の人から聞いてみんなわかってるんだ」
「ええーーっ?」
杉田綾乃は紀香がエアリーを持って事情聴取した。杉田は派手ではあるが、少し背伸びしている幼い部分も垣間見えた。
「パーフェクトに誘ってきたのは誰なんですか?」
「風俗のお客さん」
「この人?」
紀香は大木の写真を見せた。
「そうです」
「それで、どんなことを言われたんですか?」
「うーん、『もっといいお金の稼ぎ方教えるよ』って」
「それでどんな仕事だって言ってたんですか?」
「お金持ちの家に行って、お茶をだすだけの仕事だと言ってました」
《そのお茶の中に睡眠薬を入れる仕事なんて言えないわよ》
「それで、お茶を入れに行ったんですか?」
「いいえ」
《「はい」なんて言ったら、逮捕でしょ?》
「じゃあ、パーフェクトでやったことってなんですか?」
「それは、見学に行っただけで、特に何もしてないです」
《松岡直子の家の粉末のコーヒーに睡眠薬入れたなんて言えるわけないでしょ》
「えっ?」
「何ですか?」
紀香はそのあと何も言えなくなった。