【前回の記事を読む】女が殺された真相。裏には詐欺に関与せざるを得ない子供が…

携帯エアリー

「それで、若宮の会社はどうだ?」

冬彦が若宮に聞いた。

「ボチボチだよ」

「どんな会社なんだよ」

「簡単なリフォームの会社でさ、狭いところを利用して店や会社にするんだ」

「東京じゃ、家賃高いからな。いいかもしれないな」

「冬彦はどうだ?」

「俺んちの会社は雑魚ばっかでさ、俺は主任なんだけど、やる気のないやつや言われたとおりにやってくれないやつばっかなんだ」

そして省吾が言った。

「学生時代でもよくいたよな、提出物出さないやつや朝になって誰かの宿題うつすやつ」

「そうそう、そういうやつが会社に入ったらちゃんと仕事やらないやつになるってわけだ」

若宮が返す。

「俺らは文東大だからさ、そこそこ成績は良かったよな、省吾!」

「俺は学級委員とか班長とか、中学まで当たり前にやってた口だからさ、そういう提出物うつすようなやつから『上から目線』なんて言われて腹立ったよ」

「俺だってさ、今の会社で『それがどうした、だから何?』的なこと言われてさ、何にもやらないやつの方が偉いみたいになってるんだよ」

「若宮は社長だからそんなことないだろ?」

「今の会社はまだないけどさ、俺らの時代は就職難で就職試験の時、五十社落ちるなんてざらだったじゃんか? 俺もその口で、就職するだけでもやっとだったんだよ」

「そうだよ。だから俺も高卒やおっさんと同期なんだよ」

「大学受験のために高い塾入ってさ、親から偏差値やら点数やら誰かと比較されて、受験生は勉強するのが当たり前とはいえ、頑張って大学入って卒業して、何とか入った会社でも安月給だろ?」

「そうだよ。俺の入った会社も悲惨で二年で辞めたんだ」

「省吾はいいよな、刑事だろ? ドラマみたいでかっこいいよな」

「冗談じゃないよ。俺だって命がけで仕事してるんだぞ。ヤクザや前科者相手にボコボコにされて、間違って逮捕したらどんな仕返しされるかわかんないじゃないか!」

若宮が省吾に言った。

「お前の言ってたオレオレ詐欺のやつさ、外国行ったって話だったけど、この前ニュースで、タイにいてオレオレ詐欺の電話かけるってのやってたよな」

「ああ、そういえばタイから日本にかけた方がうまくいくって話だろ?」

「IP電話でネット回線だっていうけど〇三から始まるナンバーに出来てほとんど日本からの電話としか思えないらしいな」

「オレオレがらみの会社の社長が大木っていうんだけどさ、大木の持ちものがあればドッグを飛ばしてわかるかもしれないと思ったけど、もしタイにいたらドッグも動かないよな」

「大木のものかどうかはわかんないけどさ、俺の会社の天井裏から、前にあった『パーフェクト』っていう会社のものらしい、わけのわかんない手袋やら道具が出て来てさ、捨てていいかどうかもわかんないじゃんか、そのままあるんだけど……」

「若宮! 俺にそれ預からせてくれないか?」

「いいよ」

省吾はその夜、若宮の事務所に行って鍵を開けてもらった。そして、手袋や道具や資料を袋に入れてアパートに帰った。

――この中に犯人につながるものがあるかもしれない。

早速エアリーに巻き戻しの空気を読ませると

《こんなにお金もらっていいのかな? 手袋作っただけで三十万》

《この手紙は恋人に送る別れの手紙?何でこんなの私が書くのよ》

《ラジオの番組で声優デビュー? これ録音すれば百万もらえるってなんだか夢みたい》

続々と言葉が現れ、臭いをドッグに読み取ってもらい、順番にGPSで塾生の居場所を見つけ出した。そして、資料をドッグの部品に嗅がせて巻き戻しをして、ドッグを飛ばしたら、ドッグは名簿屋に辿り着いた。