「殺さないんならどうしようっていうの?」
麻衣は首を振ってどうするか未だ分からないと言った。金を奪う――しかしどうやって? まずあいつがどこに金を隠しているかが分からないとダメだ。もちろん金を奪うだけでは済ませない。何らかの制裁を加える。しかしそれは事が成ってからのことで今どうすると言ってみたところでどうしようもない。
自分たちは今は手札を何一つ持っていない。知っているのはあいつの住所と今使っている名前だけ。何もない所からは何も出て来ないと彼女はつぶやいた。でもあいつはいずれ動き出す。一生贅沢三昧出来るだけの金を持っているとは思わない。どこかに自分たちの知らない弱みがある筈だ。
そして調子を変えて言った。「あの男の日常を先ず調べなければ。あの男はつい先ごろまで娘みたいな若い女と同居していた。その女が何者かは知らない。でも女は出て行ったらしいわ。あの男はアパートの手入れを持て余してメードを雇っている。決まったメードではなくメード派遣会社のね。そこが付け目よ。あんたはメードに化けてあいつの日課を調べる。でも決して顔を知られないように――」
「どうやって顔を隠すの? マスクにサングラスじゃかえって不自然でおかしくないかしら」
「あいつはメード派遣会社に合鍵を渡しているらしいわ。お互いに顔を突き合わせるチャンスはないはずよ」
「分かったわ。私の任務はそれね」
麻衣は強い調子で言った。「それはほんの手始めよ。これから長い道のりが私たちを待っているわ。あんたも余程覚悟して掛かる事ね」
真世はあれこれ苦心した結果何とかメード派遣会社の従業員に化けて目的の家に入り込むことに成功した。その会社は二人一組の清掃要員を二時間のシフトで顧客の家に送り込むというやり方で仕事を請け負っていた。
一回二万円、三十分増すごとに五千円、悪くない仕事である。大抵の客は週一回の契約をしている様だった。一回目の時は初めてだったので会社の研修で習ったやり方を何とかこなすだけで精一杯で余計な事は出来なかった。
相棒のフィリピンから出稼ぎに来たメードは手慣れていてテキパキと仕事をこなした。二度目の時も相棒はこの前と同じフィリピン人メードだった。彼女は相棒の目を盗んで電話の脇の日めくりカレンダーをこっそりのぞき込み、そこに書き留めてある電話番号を控えた。仕事が終わるとメモした番号全てに電話して相手が何者かを確認した。