【前回の記事を読む】【小説】「叔父は一生この村から離れて生活できないだろう」

妻への疑念

夢か? 現か? 私はその境を彷徨い、夢がリアル過ぎてまだ朦朧とした中にいる。

「あの義和と勢次が出てきた。フラッシュバックか? もうとっくに縁が切れて顔を合わすこともない」

そう自分に告げると安堵する。近ごろはレム睡眠が続いているようで、ストレスのせいか夢見が悪い。ピリッピリッ、ピリッピリッ、テーブルの上に置いてあった携帯の音で私は微睡みから覚めたものの、あの少年時代をいつまでも引きずっている。畦道を歩いていて肥溜めに落ちた気分で胸が悪くなった。

せめて、携帯の着信音がもう少しマシなら寝起きもいいのにと考えるが、高い通信費の上に毎月百円も加算されるのならこれで十分かと、くだらないことに思いが飛ぶ。しかし、月に百円を渋る今の自分はなんと湿気たものだ。まぁどうれあれ、嫌な奴らが酒を飲んで来るかと、怯えていた少年のころに比べりゃまだマシか? いや、あのころも今もどっちもどっちで重くて暗い。

想いが蕪雑のまま徐々に意識が惰弱な日常に戻ってきた。まだ鳴っている。半身を起こしてめいっぱい腕を伸ばし、手繰りで携帯をつかんで出た。

「もしもし、正さん、ワシ、浅井やけど」

名乗るより先に相手の弾んだ声が耳に飛び込んだ。

「あっ、すまん、すまん、今うつらうつらしてて」と、反射的に言ったものの私の頭はまだ回らない。

「こないだ頼まれとった件やけど、知合いの探偵、やっと昨日、現場を押さえてきよったから、その写真、今日持って行くわ」

「ちょっと待って」

私は座りなおして携帯を耳に着けた。

「もしもし、聞いているか?」

「あぁ、聞いている」

「正さんの家の近くの、このまえのファミレスでどないや? ひとつ仕事片づけたらこっちを出るよって、一時で」