恵比寿顔は早足でホテルの廊下を急いでいた。あくまで足音は立てない。ある一室の前で立ち止まると、ドアの脇に立ち、胸に手を差し入れた。同行していた運転手の男に、目で合図する。

運転手は、胸ポケットから四角い金属製の箱を取り出すと、突起部をつまみ、コードを引っ張りだした。ドアの解錠装置に先端を取り付ける。すぐに音がして、ドアの鍵が開いた。運転手は金属箱をしまうと、恵比寿顔とドアを挟む形で銃を構えて壁に身体を密着させて立ち、ドアノブを握った。

ドアノブを引きドアを開けるなり、恵比寿顔は部屋に飛び込み、銃を正面に向ける。部屋の中は静まりかえっていた。恵比寿顔は静かに歩を進める。運転手も後に続いた。短い廊下の先はすぐに部屋だった。ベッドの上に、半裸の女性が座っていた。

「恭子!」

恵比寿顔が駆け寄る。恭子の横には、局部を剥き出しにした若い男が、白目を剝いて横たわっていた。恭子は呆然と、定まらぬ視線で座っている。恵比寿顔が恭子の手に目を向けると、手袋は外されていなかった。

「恭子、何があった」

恭子は宙を見つめたまま答えない。目が虚ろだ。その姿は、精神崩壊したようだった。

「男はどうだ」

男を調べていた運転手に尋ねる。運転手は男の頸動脈に触れていたが、首を横に振った。

「お前はその男の処理をしろ。あくまで自然死、腹上死した事にしろ」

恵比寿顔はそう言うと、恭子を立ち上がらせ、まず膝まで降ろされた下着を引き上げた。太股から腹部にかけて白い体液が付着しているのを恵比寿顔は見つけた。

「恭子……」

顔を見上げたが、恭子は反応しない。恵比寿顔は散乱している衣服を集め、それを身に着けさせてやり、部屋を出た。ホテルの駐車場に止めていた車に恭子を乗せる。車のエンジンを始動させ、発車させた。