【前回の記事を読む】「わたしの何が分かるの」友人の望まぬ妊娠に、少女は思わず…
第四章
栄美華に制止されなかったら私と恵は喧嘩になり止まらなくなっていただろう。恵は不服そうにも事の重大さに大人しく栄美華の言葉を待った。
「あたしは堕した方がいいと思う。酷かもしれないけど恵はまだ大学二年生だしデザイナーになる夢があってここにいるでしょ? 子どもを産むことが悪いわけじゃないけど恵の人生を考えたら今じゃない気がする」
「私もそう思う……」
恵が苛々しているのが見て取れた。しかし栄美華に反発してもメリットはない。栄美華の人望の厚さはひと昔流行った厚底ブーツよりも厚い。敵に回してもこちらに味方がいなくなるだけなのだ。それを分かってか、代わりに恵は私に食ってかかった。
「そもそも里奈がいけないのよ。あの日わたしをクラブに置いていったから」
「あの日って、恵は大輔とホテルに行ったんじゃなかったの」
「違う。大輔が他の女と出て行く所を目撃しちゃって、当て付けに大輔の友達の赤髪とホテルに行ったの」
「でもそれは私のせいじゃ」
「恵がいてくれたら、思い止まってたかもしれないじゃん!」
食い気味に恵が反論する。恵の理不尽がまた始まった。身に覚えのない事で責められ、言い返しても何も響かない。永遠に相容れないのだなと諦めに入るのだが、ここまでの理不尽は今までになかった。
「恵って高校生の頃から危ない人と関係持ってクラブで遊び回ってたんでしょ? 素行が悪いからそんな事になったんだと思う。ホテルに行ったのだって自分の判断なのに大学生にもなって人のせいにするわけ?」
言われたままでは気が済まない私は少しきつい言い方をした。
「それ里奈には関係ないでしょ。わたしが困って苦しんでる時になんでそんな言い方できるわけ? 友達ならもっと心配してくれていいじゃん」
「ごめん。もう無理。こっちがいくら心配しても伝わってないし。真剣に話を聞くだけ馬鹿みたいだから勝手にして」
私は吐き捨てるように言うと教室から出た。ミーティングまでの時間は食堂で過ごすことにした。大きなフロアに朝から人気も少なく、一人考え事をするのにちょうど良い。
恵なんて友達でも何でもない。これまでも喧嘩をするたびに友達をやめてしまおうかと考えるほどの自己中心的な恵の言動はあったが我慢できていた。だが今回は堪忍袋の尾が切れた。どうして恵のような思考回路になるのだろうかさっぱり理解できない。