双頭の鷲は啼いたか

鴻池武司は友人の広瀬に自分の病室に来てくれるように頼んだ。病室といっても空いている個室だったので、自分のパソコンなどを持ち込んでアメリカ行きの準備をしていた。広瀬の勤務している大学病院から近い鴻池第一病院に転院したので彼はすぐにやってきた。

事故の被害者のタケルも意識を取り戻したと秋山医師から連絡があった。武史はやれやれと少し安心した。ちょうどギプスが取れたので、リハビリをする毎日だった。もう大型バイクはやめようかとも考えていた。それよりDNA鑑定の結果、あのタケルという同じ年齢の男性が何者なのか、ずっと気にかかっていた。

「武史、遅くなってすまない。連絡をもらっていたのに」

「いいさ、広瀬。忙しいのは承知だ。僕だって急にどうってことはないけど、またつまらないことを頼まなければならない」

「例のDNA鑑定か。今度は誰と誰なんだ?」

「いいか、今度は誰か言えない。でも一人は」

武史は言いかけてやめた。広瀬は腕組みをしてうかがうように丸椅子に座った。

「それなりに、謝礼はする。事故を起こしたのでバイクはやめようかと思っているんだ。修理したらもらってくれないか? あれは車ほどの値段だから」

本当は愛着があり手放したくない。

「僕は大型免許持ってないよ」

「だから、乗れとは言わないよ。売ればいいじゃないか」

「あ、バイクは了解。で、検査は三日くれないか。院生にやらせるわ」

「院生で大丈夫か? せめて国家試験合格した臨床研修医に頼んで欲しい」

「ハイハイ、その代わりに武史が病院長になれば 、僕もこの病院に引き抜いてくれるよね」