飛行機でも宇宙船でも同じで、到着するときが一番注意しなければならないときである。
目的の星に近づけば隕石や重力、恒星からの太陽風など危険が待ち受けている。わずかな判断の違いや遅れが致命的な失敗に繫がる。
しかも減速にはものすごいエネルギーが必要になる。
引力の大きさにもよるが、エンジン出力の状況によっては、十分に速度を落とせず引力に負けて恒星や惑星に飲み込まれてしまうことにもなりかねない。
ウラシマの燃料となる水は船の外壁に氷として張り付いているので、太陽のような恒星に近づくとそのままではどんどん溶けて減少してしまう。減速エンジンによる燃料消費と恒星自体の光線で溶け出して失われていくため、燃料がもつか大きな問題となる。
ウラシマは製造当初から帰還することは考えに入っていなかった。いわゆるワンウェイの片道旅行の宇宙船である。
資材も2万年分しか用意されていない。すべて使い切って目的を達成するように計画された船である。しかも、資材の耐久性は経験もないし実験もされたことがない。シミュレーションで割り出された年限であるので、実際にはどの程度の劣化が起き、どこが破損するかは全くの未知数である。
堀内は、船内に外壁を除いたウラシマを、そっくり1基作れるだけの建造資材と建造ロボットのパーツを用意した。しかし、宇宙空間という気象変動の変化が少ない条件とはいえ、材料の耐久期限、いわゆる自然劣化がどこまで進むかは全く未知数である。
銅やアルミは確かに鉄のように錆びて朽ちることはないと思われるが、人間には2万年もの使用経験がない。
人類の知り得る人工物の最大の経過時間はピラミッドの中に残され、4千年の歴史しかないのである。
目的地に到着する頃には、船体もエンジンもまともに使えるかどうか全くわからない、頼りになるのは人間の英知と勇気だけである。