【前回の記事を読む】【小説】好奇心には命を懸けるほどの勇敢な価値があるんだ
乙姫のバーチャルシステム
星野が織田と神社にお参りに出かける。
星野が神社に向かう車の中で、織田に話しかけるように、「子供の頃見たSF映画の中で宇宙戦艦が、超高速移動手段として時空のひずみを利用して一気に何万光年も先に飛び出す移動手段、ワープで戦うのがあったが、これは空想科学小説の世界であって、現実にはワープなんてあり得ないことです。
物体はひたすらスピードと距離の関係でしか前に進めない宿命というか物理学の原理原則で、エネルギーを使って物体をひたすら早く移動させるしかないのが現実であります」
乙姫が出した計算ではウラシマは、最大光の60%までスピードを加速できる。
光のスピードで1年かかるところなら2年で行きつくことができる性能があることがわかった。
織田が「星野さん、こんなスピードで飛ぶのはすごいことですが、何か危ない気がするんですが」と言うと、
「そりゃー、危ないですよ。宇宙空間は何もないように言われていますが、意外とそうでもないんですよ。ごく小さな目にも見えないしレーダーにも映らないゴミみたいな浮遊物などは、とても怖いですね。例えば握りこぶしほどの石に当たっても船には大きな穴が開いてしまいます」
「巨大な象がライフルの小さな弾で倒れるようなものですね」
「そうです。ライフルの弾は速くて見えませんからよけることができません。それと同じです」
「光の半分のスピードで飛んでいるのですから、レーダーで発射した電波が物体に当たって戻ってきたときには、船はその物体に当たっている計算になります。ですから探知のしようがないのです」
「それじゃー、飛行中は運任せということになりますね」と心配する織田に、
「いや、運だけでは生き残れませんから、神様によくお願いして神頼みとしましょう」と、真面目に笑う。
「ですから、今日は神社にお札をいただきに参るのですよ」
「織田さん。お賽銭をケチらないでくださいよ。何かあったとき、あのとき賽銭をケチったからなんて思いたくないですからね」と、強く言う。
車の中は笑いに包まれる。