そうした場面で見事な連携を見せたのが、末広さんと新田さんだった。ともに生真面目で几帳面。いったんすれ違ったら二人の関係がややこしくなること必定だったのに、この二人は妙に気が合うみたいで、佑子にしてみればかゆい所に手が届くどころか、かゆくなる前にケアしてもらえる程の行動力を見せた。

責めるつもりもないけれど、その分海老沼さんはハイテンションで試合の応援ボイスに集中したし、小山さんはほぼ専属の看護師の様相で活躍を見せ、練習前には彼女の前にテーピング待ちの列ができたのだった。目を見張る佑子に、小山さんはしれっと言うのだ。

「いずれ、看護師になるつもりなんで」

あ、アイドル目指してるんじゃなかったの。

「ジュンも、先を読んで密集にアプローチできるようになったな。まぁそれは、フォワードの密集形成がスムーズになったからだってのもあるけど」

合宿の最後の晩。宿のロビーでミーティングになった。この夜は宿泊しているのが大磯東のメンバーだけだからそれも可能になった。試合を撮影した動画をモニターで見ながらのミーティングで、基が、その日の試合を解析しながら話し出す。

「ただな、密集にアプローチしていくジュンの目線、どう思う?」

テンポよく攻撃してゆく、つまりはティームとして納得できたアタッキングシーンなのだけれど、基はそこに注文をつけようとしている。

「足立しか、見てないだろ。相手に冷静な目を持ったヤツが一人いたら、ディフェンスは決めつけてやれる。きみたちには、相手の目線に立った戦略やイマジネーションが足りない。いや、ない」

自己満足なラグビーなんだと、基は言っているのだ。だから、実力が劣るティームには大勝できるかもしれないけれど、そうじゃない相手には勝てない、と。そこから、佑子には信じられないことでもあったのだが、基はナインシェイプ、テンシェイプというアタックのビジョンとディフェンスの基礎理論を延々と講義したのだ、生真面目に。基がそこまで冗談もなく、笑いを取ろうともしないで話すのは稀有なことなのだ。

理解の届かない一年生や一部の二年生はだんだんウトウトしてはきたのだけれど、足立くんや保谷くんの目は輝きを増す。佐伯くんが何か言いたげにもぞもぞする。

「山、下りたらグラウンドで試してみようぜ」

基がそう締めくくった時には、リノリウムの床で何人もの部員が寝息を立てていた、のも仕方ないことなのかもしれないが。