【前回の記事を読む】「先生の泳ぐ目が好き」覚悟を決めた顔で告げられた意外な思い

新しいマネージャー

青くかすみながら夏の太陽を反射している信州の山並みは、懐深く歓迎してくれているように見える。

上田菅平ICを降りたバスは、じわじわと標高を上げながら、高速道路での軽快さを忘れて、着実に進んでいる。ダム湖が見えればもうすぐ菅平。今年も来たんだな、と思う。

佑子たちの葉山高校の夏合宿は山中湖だったけれど、去年の経験でラグビー部員が菅平の夏を過ごす意味が分かった。練習も試合も、夏の日を菅平で過ごしたことで得られるのは、おそらくはアイデンティティ。大げさだろうか。でも、ラグビー部で高校時代を過ごすのなら、体験させてあげたい夏の日々だとも思う。

昨年の、龍城ケ丘高との合同合宿では山本先輩に甘えるばかりで合宿の日程は消化されたけれど、今年の指揮は佑子に委ねられる。コーチングの部分ではラグビーアカデミーの先生方や基に頼ることにはなるのだが、ティーム全体のコーディネートは佑子が仕切らなければならない。

お金の管理やら食事や部屋割りやその清掃、練習時間帯以外のタイムマネージメント、怪我などの不測の事態への準備、心配事は次々に襲いかかるようで、正直に言えば、練習や試合が具体的に始まってしまうと何だか安心するという、心理面の負担は逆転した数日になった。

それでも、グラウンドからトウモロコシの畑の脇を通りながら、夕方の菅平の風景の中を宿に帰るのは、それはそれで充足感のある一日の終わりではあった。

驚いたのは妹尾くんの食事、そのご飯の量だった。とにかく際限なく食べる。いただきますの挨拶はみんなで声をそろえて言うのだけれど、次の瞬間にはもうお代わりをしている。学校で時折見る彼のお弁当箱の大きさもそうなのだけれど、妹尾くんはご飯を、食べているのではなくて飲んでいるのではないのか。確かに大柄でしっかりした体型の妹尾くんだが、決して太ってはいないのが不思議だ。

もちろん、身体を使い続けている部員たちみんな、健全な食欲を示してくれる食事のシーンは快さを感じもするし頼もしい。

「まんちゃん、満腹ってしたことある?」

隣に座ることの多い磯部くんは、両頬にご飯を満たして幸せそうに咀嚼する妹尾くんに言うのだ。その磯部くんは、佑子が不安になるほどに食が細い。フライに添えられたキャベツの千切りを、一本一本つまんでいるような食べっぷりなのだ。でも磯部くん、好き嫌いもなくちゃんと完食するのだけれど。

幸い、重大な怪我を負った部員もおらず、夕食が済んでしまえば部員たちは部屋でリラックスしているのだが、マネージャーさんたちは、汗の染みついた、それでも翌日に使用するユニフォームの洗濯とか、一日を過ごしてみればぐちゃぐちゃにかき回されているメディカルバッグの装備品の再整理など、こまごまと働く。