【前回の記事を読む】宇宙船の中で登山⁉ 完璧なバーチャルシステム「乙姫」完成
乙姫のバーチャルシステム
6人の主人が100年ごとに人間に再生したとき、でき得る限り地球上での環境を再現するように維持しておく必要がある。さもなければストレスで精神の安定を保つことはできなくなるからである。
バーチャルの中の世界だけではない。実際に身体を動かし筋肉を付け運動神経をはぐくむには、それなりのフィールドが必要になる。
例えばマラソンをしたとすると、周りの景色はバーチャルの世界で彩ることができる。スポーツジムでの練習でも若い女の子と一緒に汗を流すことができ、東京マラソンでの実況つきのランニング、ニューヨークマラソンでもロンドンマラソンでも世界中のインターナショナルマラソンを走ることができる。
彼らの趣味の世界については後ほど。
頭脳は何百年何千年の知識と経験を持ち続けるが、身体は生まれ変わるたびに20歳の若さである。しかし筋肉は頭脳から発せられる指令についていけない。身体と脳情報の不一致がストレスとなって表れる。
人工胎盤の中で育てられた身体はふやけた肉の塊でしかない。トレーニングされていない筋肉には自分の意志がうまく通じない。脳波と筋肉の動きは何年もかかって思ったように動くもの。目と筋肉と脳を連動して動かすには毎日のトレーニングしかない。
野球でもテニスでも自転車に乗ることでも、目で認識し、脳でその情報を処理し、筋肉に動かし方を伝える連動によって行なえるのである。
スポーツは「体で覚えろ」と言われるが、無意識に身体が動くようになるには最低でも2年はかかってしまう。この期間が再生した彼らにとっての最大のストレス期間である。iPS細胞から再生した人間は2年をかけて基礎トレーニングから始める。この基礎トレーニングの方法を6人は出発前に模擬実験機の中で体験する。