【前回の記事を読む】思わず拍子抜け…コロンビア入国が「楽で簡単だった」ワケ

第一章 米・中米・南米の旅

アンデスの密輸バス コロンビア(イピアレス)→エクアドル(トゥルカン) 一九七三年一月二一日

コロンビアの国境の町イピアレスから、エクアドルの国境の町トゥルカンへ、十時にタクシーで出発する。タクシー代は三百三十円で、二十分くらいで着く。エクアドルへの入国はきわめて簡単で、滞在日数をきかれ、すぐに三十日の滞在を許可される。税関はなく、したがって荷物の検査もない。

このエクアドルとは、スペイン語で「赤道」という意味で、赤道の近くにある首都のキトは一年中朝の六時に太陽が出て、夕方の六時に太陽が沈むそうだ。

トゥルカンのバスターミナルでエクアドルの首都キトまでのバスチケットを買う。出発の二一時三十分まで十時間あまりあるので、バスターミナルで荷物を預かってもらって町を見物する。しかし、小さい町なので二時間も歩くと町を一周できる。

バスは二一時三十分の定刻に出発。しかし、途中の各都市への入り口でコントロール・ポイントがあり、ここで兵隊がバスに乗り込んできてパスポートと荷物の検査をする。荷物は車内はもとより、バスの屋根の上に満載したものまで降ろして検査する。

その検査の間中、他の兵隊は着剣付きの銃を持ってバスの周りを警護している。これは乗客が逃げ出さないように見張っているのか、それとも盗賊が出るのでそれへの警戒措置なのか。どちらにしても日本では考えられない社会である。

一回目のコントロール・ポイントは無事通過したが、二回目では何が入っていたのか、屋根の上に積んでいた荷物が、数個押収された。三回目の検問では二時間ちかくかかって徹底的にバスの中が検査された。

すると、出るわ出るわ。バスの後部のスピーカー・ボックス、運転席の下、救急箱を取り付けている所などから、化粧品、下着、靴下、薬などが続々と出てきた。これらはコロンビア製品で税関を通さないエクアドルへの密輸品なのだろうか、全て没収された。

このバスの中で、ネジでとめられて、ちょっと隙間がある部分にはこれらの品物がいたる所に詰められているようだ。このため、毎日毎回繰り返される検問で、これらのネジのヤマの部分はなくなっているような状況である。

コロンビアからエクアドルの首都であるキトにこれらの品物を持っていくと、いい商売になるのだろう。しかし、夜行バスなのに、都市に入るたびにこの検問が繰り返されるので乗客は眠っている間がない。もっとも、乗客もバスの乗員もこれらの密輸品(だろうと思われる)の品物を運ぶためにおちおち眠っていられないだろうが。

これらの隠匿物(密輸品?)をバスの中で探す方法は、検査官がバスの内部の各箇所をトントンとこぶしで叩き、その音を聞いて怪しいと思ったらそこのネジをドライバーで開けて探す。こぶしで叩いた音で、内部に品物を隠しているかどうかが判別できるとは、検査官はさすがにプロである。

バスの運転手も毎回のことで手馴れたもので、検査官が指摘すると自分でネジをはずすのを手伝っている。自分で隠して、それをまた取り出しているのは、なんともおかしな情景である。