「あの、六月に文化祭、あるじゃないですか」
日曜日に公式戦が入った場合、月曜日の部活はオフにする。その月曜日の放課後、職員室に石宮くんと澤田くんがやって来た。
「有志バンドに、エントリーしちゃダメですか?」
そういえば、この子たちは元軽音楽部。さすがにラグビー部に集中した一年生時代を過ぎて、二年生では軽音部に登録用紙を出していないはずだ。
「去年の血がうずくっていうこと? でも、バンドの編成できなかったんじゃないの?」
「いや、実はワッサが入学祝いにベース買ってもらったらしいんですよ、去年。でも、あいつスコア読めなくて、自信なくて軽音に近づかなかったらしいんで」
「メンバーがそろったっていうわけだね」
「オレがドラムで、シンちゃんとなごみがギターなんですよ。でワッサにベースやらせて」
「ヴォーカルがいないね」
「ハイ。で、ヴォーカル、先生にお願いできないかな、って」
嫌いではない。だから余計に逡巡してしまう。クラスの生徒に担ぎ出されたというのならばカワイげもありそうだけれど、ラグビー部員をバックバンドにしたら、何か言われそうな気もする。
「でもさ、ゴールデンウィークには総体のセブンズでしょ。文化祭のある六月には、地区のセブンズもセブンズ全国大会予選だってある。両立できるの? あ、もっと大事なのは定期試験があるよね。勉強が一番大事じゃない。トリプルで頑張れるのかな」
それまで全てを石宮くんに言わせて黙っていた澤田くんは、ここで口を開く。
「先生、まかせてください」
何をどうまかせるのだか分からないが。
「ウチの学校の生徒が文化祭の催しにエントリーするのは自由だよ。だから、やめろとは言わない。でも、きみたちの勉強やラグビー部の仲間たちにマイナスの影響が出るのなら、いいよって言いたくない」
「な。予想通りのリアクションじゃん」
ちょっと冷静な、澤田くんのコメントが石宮くんへ。ならばその流れで。
「ん。分かってるじゃない。私だって、他の先生方の手前、出しゃばることははばかられるしね。ヴォーカルは他で探してよ」
目を見交わす二人の姿にかぶさるように、甲高い声が廊下に響く。海老沼さんが渡り廊下から小走りにやって来る。右手で、一年生の女の子と手をつなぎながら。