【前回の記事を読む】文化祭を控えた部員から、ラグビー部顧問へのまさかの誘い?
エイトビートの疾走
「ユーコ先生!」
海老沼さんは、石宮くんと澤田くんが目に入っていないかのように、一直線に佑子に視線を向けている。
「新マネさん、見つけたよ」
海老沼さんの後ろで、むしろ困ったような顔をしている一年生。一見して派手めな印象の可愛らしい顔なのだけれど、多分それは彼女の自己演出なのだろう。大磯東は生徒のファッショナブルな姿勢には厳しめな指導をするけれど、そんな点にギリギリの折り合いをつけている感じ。手入れの行き届いた、ショートヘア。
「G組の小山朱里ちゃん。入部届けも持参でぇす」
会話からはじかれた感じになってしまった石宮くんが、戸惑った表情になっていたけれど、あ、というつぶやきとともに海老沼さんに向かい合う。
「えびちゃんさ、歌、歌わない?」
今度は海老沼さんが一瞬凍る番だ。
「ケータくんたち、文化祭の有志バンドのヴォーカル、探してるのよ」
軽く、支援。
「ケータ。きみは私のこと、分かってない」
「そう言われてもなぁ。えびちゃん、声でかいじゃん」
「でかいかもしんないけど、私には音程というものがないの。オンチなの。高校入試で一番足引っ張ったのが音楽の内申なの。恥かくのは、ヤなの!」
「あの、先輩。バンドやるんですか?」
小山さんの第一声は、それだった。
「私、ヴォーカルやりたい! 軽音かマネさんか、迷ってたんですよ。ビー部のマネさんになってバンドもできるんなら一石二鳥かな」
うふ、と、高校一年生には見えないような、女の子らしいキメポーズを作った。