俳句・短歌 短歌 2022.04.17 短歌集「蒼龍の如く」より三首 短歌集 蒼龍の如く 【第58回】 泉 朝雄 生涯にわたって詠み続けた心震わすの命の歌。 満州からの引き揚げ、太平洋戦争、広島の原爆……。 厳しいあの時代を生き抜いた著者が 混沌とした世の中で過ごす私たちに伝える魂の叫び。 投下されしは新型爆弾被害不明とのみ声なくひしめく中に聞きをり 伝へ伝へて広島全滅の様知りぬ遮蔽して貨車報告書きゐし 擔架かつぐ者も顔より皮膚が垂れ灼けただれし兵らが貨車に乗り行く 新聞紙の束ひろげてホームに眠る中すでに屍となりしも交る 息あるは皆表情なく横たはり幾日経てなほ煤降るホーム (本文より) この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 散り敷ける落葉に落つる落葉の音 町中ながら静けさ聞くも 物あぐみ出でて歩めば街路樹の はだえに照れる秋日親しも つややかに日は照りながら街路樹の 枝葉刈られて冬の装ひす
エッセイ 『プリン騒動[人気連載ピックアップ]』 【新連載】 風間 恵子 「そんなプリンなんか作ってないで、早くメシのしたくしろ!」台所で一挙手一投足に怒り狂う義父。言葉の暴力が鉛となって心臓を突き抜けた。 ある晩のことだった。三人で、夕食のしたくをしていた。この三人と言うのは、舅(しゅうと)・姑(しゅうとめ)・嫁すなわち、私の事である。台所は女の神聖な場所と考えられているのではないか。しかし、この家では、舅が当たり前のように立つことが多い。自分が調理したものは自慢をするが、人の作った料理は決して、美味しいとは言わない。逆に貶す事に喜びを感じるタイプである。野菜の切り方から、味つけまでを一つ一つ指摘…
小説 『ハロー、わたし!』 【第6回】 澤 幸希 有紀ちゃんが亡くなったなんて…。僕はあまりのことに頭の芯が痺れて冷たくなり、胸の中が一気に空っぽになった 恭ちゃんをメールで誘ってみると、秒速でOKが返ってきた。オーナーの健太さんにも連絡してみると、こちらも二つ返事だった。「おう、二人とも生きてたか! 馬たちに忘れられないうちにおいでよ。クリスマスに来るって? いいとも。でかいケーキを用意しとくよ」その年のクリスマスは珍しく雪が降り、仲馬倶楽部も白一色だった。僕は八百屋で一番立派なニンジンをいっぱいに盛り付けてリボンをかけてもらった籠を持ち、朝早く…