俳句・短歌 短歌 2022.04.10 短歌集「蒼龍の如く」より三首 短歌集 蒼龍の如く 【第57回】 泉 朝雄 生涯にわたって詠み続けた心震わすの命の歌。 満州からの引き揚げ、太平洋戦争、広島の原爆……。 厳しいあの時代を生き抜いた著者が 混沌とした世の中で過ごす私たちに伝える魂の叫び。 投下されしは新型爆弾被害不明とのみ声なくひしめく中に聞きをり 伝へ伝へて広島全滅の様知りぬ遮蔽して貨車報告書きゐし 擔架かつぐ者も顔より皮膚が垂れ灼けただれし兵らが貨車に乗り行く 新聞紙の束ひろげてホームに眠る中すでに屍となりしも交る 息あるは皆表情なく横たはり幾日経てなほ煤降るホーム (本文より) この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 山に来て心ひそけし笹の 葉の濡れゆく音も聞きとめにけり しののめの雲居映して高山の 笹の濡葉はかがよひわたる 目に沁みて秋とし思ふ山上の もみぢに触(ふ)りて雲消え行くも
エッセイ 『カサンドラ症候群からの脱却[人気連載ピックアップ]』 【新連載】 Happy Navigator 那美 妊娠4ヵ月目の裏切り......夫が会社の同僚と肉体関係を持っていた。「だってお前が、子どもを欲しがったから」 夫とは、私の会社の同僚の友人という形で知り合い、1年半のお付き合いの後、結婚しました。もちろん、幸せになるために結婚しました。子どもたちと一緒に温かい家庭を築くことが目標でした。1年半のお付き合いの中でも、私は特に彼に違和感を持つことはありませんでした。いま思えばなんですが、結婚に関して前進する手続きはすべて私がやりました。・結婚するまで二人で積立する・家具や生活用品を買う・結婚式の日取りを決め…
小説 『カトリーヌと囁き森』 【第20回】 智佳子 サガン 島の表面が白いサンザシとニオイニンドウと野ばらの白に覆われる遅い春がもうすぐやってくる 三月も終わりの雨が降るある午後、イロンデイルの屋敷にひとりの来客があった。二階の三つのゲストルームのひとつにその客は滞在することを私はメイドのカーラ・グリーンから聞いていた。というか、久しぶりのお客様なんだから、とカーラが私より少し年上のもうひとりのメイドのジェーン・フォンテーヌブローに言っている場所に居合わせただけだが、カーラのいつもより華やいだ口調にジェーンは鼻白んでそっぽを向いた。「ジェー…