【前回の記事を読む】ラグビー強豪国イングランドを圧倒。南アフリカの賢すぎる戦法

ラグビーW杯2019は多様な人種の選手たちを高い次元で統合した南アフリカの優勝で閉幕した

大会を通じて確認できた現代ラグビーの戦術を概観しよう。簡単に図式化すれば、ラグビーの攻撃パターンの進化は、フォワードとバックスの相互乗入が進む過程そのものだ。

今では、世界のトップレベルのチームでは、フォワードも速く走るし、長いパスも投げる。バックスも密集に絡んだり、フォワードの選手をタックルで止めたりする。しかし、相互乗入が進んだ結果、バックスがフォワードを止めざるを得ない状況を作り相手を追い込む「ミスマッチ形成」が上位チームの基本戦術になった。

フォワード第一列の選手はスクラムが命で、それだけで疲弊する。従来は、スクラム以外は他の選手に任せるというのが一般的だった。しかし、それでは攻撃パターンに変化が付けられない。そこで、フロントローも、走れるしパスも投げられるよう訓練し、戦力化した。

皆さんは、この試合をどのような気持ちでご覧になりましたか。私は、全日程の最終日になっても、紳士的で献身的なプレーに徹しようとする両チームのフィフティーンに、強い感銘を受けました。

また、創造的で臨機応変なラグビーをするイングランドに対して、隙を見て持ち前のフィジカルの強さを前面に押し出しつつも展開ラグビーで相手を幻惑させた、南アフリカのしたたかさに舌を巻きました。

全日程が終わった今、ラグビーの本質を広く伝えたいと強く思います。ラグビーでは、与えられた役割を果たすことに徹し、共通の目標を実現するために献身を惜しみません。これが本質と言って良いでしょう。これを広く日本中に伝えたいものです。

重点的に取り組むべきは、次代を担う子供達でしょう。日本ラグビーフットボール協会もその重要性は認識しているようです。しかし、うまく行くでしょうか。残念ながら、楽観視できる状態ではありません。

確かに公園で遊ぶ子供達がラグビーに興じる姿を見かける機会は増えました。でも、子供達が夢中になっているのは、「ジャッカル」や「オフロードパス」のような現代ラグビーの高等戦術の結晶である目立つプレーです。入口はそれで良いかもしれません。しかし、共通目標の実現に向けて自分の役割に徹するという、ラグビーの本質に至る道筋を示す必要があると考えます。

小学生の子供を持つお母さん達にお願いです。もしお子さんが「ラグビーをやってみたい!」と言ってきたら、どうか止めないでください。怪我が心配なのは分かります。でも、ニュージーランドでは3歳から楕円形のボールに親しむのが普通になっています。こういう参考例があるのですから、工夫すれば怪我なくラグビーを楽しめるはずです。

残念ながら、タックルをしないタグラグビーでは、このスポーツの面白さや難しさは十分には分かりません。また、子供の頃は筋トレはしませんから、骨格の発達が阻害されることもありません。勇気を出して、お子さんを送り出しましょう。