【前回の記事を読む】「無理めのミッション達成した、呪いを解いて」に衝撃の返答

七月

「明治神宮周辺は俺の散歩コースだったんだ。たまたまその日散歩していたら、守護霊のようにレイのそばにいる鳥の霊をみた。少しでも力になりたくてこの世にとどまっているようだった。その様子を見たらあんたがいいやつだってことは分かるよ」

他の人間が言ったらヤバいやつだと思われるような会話だが、こいつの不思議さはもう受け入れざるをえない。

「その後、もう一回あんたを見た。最初に見た時から半年後——今から二年くらい前だ。その時はもう霊は成仏していた。きっとささやかだけど、恩返しができたんだろう」

二年前、大学四年生の七月。小鳥を埋蔵したのがその前の年の十二月。その半年ちょっとの間に何か良いことあったか? 就活がつらかったことしか覚えていない。今思い出しても、吐きそうになる半年だった。結果的に奇跡に近い内定がもらえたから良かったが。ん? 奇跡に近い内定……。

「思い当たったようだな」

言葉が出なかった。今の会社に入れたのは、本当に奇跡だったんだな。実力が認められたと思っていた自分が急に恥ずかしくなった。恥ずかしくなった後に情けない気持ちになって、ため息が出た。

「俺は本当に運に助けられてばかりだなあ」

「でも、そのあと呪いにかかってしまったんだから、人間万事塞翁が馬じゃないか。もし出雲に行った時に小鳥の霊がまだついていたら、呪いなんてもらうことはなかっただろう」

人間万事塞翁が馬。桃、本当によくそんな言葉知っているな。

「去年、ヒカルのことで困っていた時期に、たまたま呪いにかかった人間を見かけて、それがレイだった。すぐにあの時の人間だって分かったよ。気の毒で、できれば助けたいと思って声をかけたんだ」

「なんかそれ聞くと、ヒカルのこととは関係なく、純粋に善意で助けてくれたように聞こえるな」

「当たり前だ」

そういえば俺が「等価交換」という言葉を使った時、桃はきょとんとしていた。あの時俺は彼が言葉の意味を知らないのだと思っていたが、そうじゃなかった。桃にとっては、俺の呪いを解くことと、ヒカルを立ち直らせることは、交換条件なんかじゃなく、両方ともやるべきことだったのだ。

たまたま俺が彼女を助けられる役になれただけで、彼の言う通り、俺が助けになれなかったとしても呪いを解いてくれたんだろう。俺はまたため息をついた。今度のため息はネガティブな感情に起因するものじゃなく、実直を体現したような桃に感銘を受けたからだ。