「なあ、やっぱり俺は運が良いと思うな。呪いにかかったことだって見方しだいだよ。おかげで桃に会えた、あのカフェでヒカルに勉強を教えるのもすごく楽しかった。人のために無心に何かするってやっぱりいいもんだなって。そんな感覚、久しぶりだった。だから、神様だか蛇だか分からないけれど、呪いをかける相手に俺を選んでくれて良かったとさえ、今は思ってるよ」
「レイ、あんたもずいぶん元気になったみたいだ。今だから言うけど、去年あんたはすごく弱っているように見えたんだ。初めは呪いの影響かと思ったけど、呪いは解いたはずなのに、なかなか良くならないから、心配になっていたんだ。でもヒカルと同じようにだんだん元気を取り戻してくれた。もう心残りはないよ」
お前とヒカルのおかげだと、心の中で言った。そういえばこいつと一回も飲みにも食事にも行ってないな。今更誘うのは不思議な気がするけどいけないことはないだろう。でも、今日はもう遅いから日を改めるか、なんて考えていると、
「さて、俺はそろそろ行かないといけない」
「ん、ああ。なあ今度ご飯でも行かないか? たまにはいいだろ?」
「レイ。用事が済んだから、俺はもう会えない」
桃は神妙な面持ちだ。
「悲しいこと言うなよ。用が済んだらもういいってことか? 俺の方は勝手に友達だと思ってたんだけど」
ちょっと棘がある言い方になってしまった。
「そういう決まりなんだ。前も言っただろ。特別な事情がない限り、この世ならざる部分を人に見せてはいけないって」
覚えている。初めてヒカルに会いに行った時だ。
「桃は人間としてヒカルに会うことはできない」と言っていた。桃は続ける。
「不自然な力を行使するのは、不自然な現象を解決しないといけない時だけだ」
「それって俺の呪いのこと言ってるのか?」
「そうだ」
「でもさっきの話だと、それとっくに解けたんだろ? だったら、その後一年近くも今の姿のままで会えてたのはなぜだ?」
どんどん責めるような口調になってしまう。きっと理由があるのだろう。だけど冷静に、理路整然と説明されると、却って理不尽な怒りが湧いてきてしまう。ヒカルといる時は、自分は大人の振る舞いができると思っていたけれど、実際は全然そんなことはなかった。