それではこのように周辺視野では見えて、中心視野では見えないという状態がつくられたとした場合、中心視野の部分にはどのような映像が見えるのでしょうか。自分の経験では視線がスピードメーターをとらえた瞬間には文字盤の数字は見えず、ただ暗い感じに思われましたが、これは夜だったからかもしれません。

一般にこのようなときは、中心視野はごく狭い範囲ですので、周辺視野だけで全視野のほとんどが見えているわけで(有効視野も周辺視野に含めます)、その中央部分に、本来見えるべきもの(中心視野でとらえたはずの対象)が見えていない状態ということになると思いますが、中心視野の部分にぽっかりと穴があいたようにはなっていないように思います。

私の視覚経験、記憶情報との照合

また、自分の経験なのですが、私がある日、もらったおにぎりを食べていたとき、中に黒豆があちこちにちらばって入っているのを見ながら食べていました。残り3分の1くらいになったときに、かじったおにぎりの断面に、(突然)黄色いものが見え、一瞬「何だろう?」とドキッとしたのですが、次の瞬間それが栗だとわかってほっとしたのです(これはほんの一瞬のできごとでした。もともとおにぎりに栗が入っていることは知りませんでした)。

あとからそのときのことを考えてみますと、最初に何か黄色い物体のでこぼこした断面が見え(このときはまだ記憶情報との照合がなされる前の映像と考えられます)、何かがわからずドキッとした瞬間がおそらく、おにぎりをかじって栗の断面が現れてから、100~145ミリ秒後程度で、すぐ次の瞬間にそれが栗の断面だとわかって、ほっとしましたが(このときは記憶情報との照合がなされたあとの映像と考えています)、このときが約170~200ミリ秒後程度だったのではないかと考えています。

ですので、記憶情報との照合がなされる前の映像が一瞬見え、ビクッとした「これ何?」という不安は、だいたいですが数十~百数十ミリ秒間程度のことだったと思います。この際の、最初に見えたときの黄色い物体としての断面と(これは記憶情報との照合がされる前の映像と考えています)、その直後に見えた栗とわかったときの断面(記憶情報との照合がされた後の映像と考えています)とを、自分なりに比較してみますと、大きなちがいはないようにも思います。

これは単に、何であるかがはっきりわかって見る場合と、何だかわからなくて見る場合のちがいということかもしれません。さらによく思い返しますと、最初に黄色い断面が見えたその直前の一瞬に、タイムラグがあったように、つまりおにぎりをかじってから黄色い断面が目に入ってくるまでに、ほんの一瞬それが見えていなかった時間があるように感じられたのですが、もしそれが真実なら、その時間は約80~100ミリ秒間以内くらいということと考えています(ちなみにその際の一瞬の不安感など、感情の出現〔の知覚?〕は、非常に速いと考えています)。