先日久しぶりに祖父の家に遊びに来たらしい。中学の時ほど快活ではなかったが、会話もできて祖父はとても喜んだ。その時に「三年生になってから学校にちゃんと行っている」と言っていた。
そうだったのか。四月に入って彼女が進級したのは知っていたが、俺の方ではあまり変化を感じていなかった。勉強もこれまで通りのペースで教え続けていた。でもそうか。ちゃんと学校に行けているのか。ということはあのカフェには学校帰りに寄っているんだな。相変わらず会うときは私服なので、ヒカルの高校は制服を着なくてよい学校だったのだろう。
「まだ油断するなよ。新年度が始まって二週間だろ。夏くらいまで待たないと安心できないぞ」
冷静を装って言ったけど、俺も嬉しさは隠しきれない。
「でもとりあえず、目標の一つは達成でいいのかな」
桃が次に何ていうか待っていたが、なかなか話し出さない。
「おい、なんか言って……」
調子に乗って小突こうとしたから、街灯が照らす彼の表情を見てギョッとした。
端正な顔から涙が流れ、それを隠そうともしない。
「ありがとう」
俺は泣かなかった。
「だから安心するのは早いって」
泣かなかったが、もう少しで泣きそうになった。
ヒカルの時間は、進み始めている。