「いい? 百パーの集中力と闘争心がないと、怪我するんだよ!」

小さな範囲で、六人対六人のバトルを展開させる。指導者側である佑子が一番恐れるのは怪我なのだが、練習で思い切りパフォーマンスしたことがない選手が、本番で中途半端なプレーをして大怪我することの方がもっと怖い。

佑子の笛の、小さな一音を合図に、センターに置かれたボールを持って突進したのは保谷くん。迎え撃つのは石宮くんで、低く鋭いタックルでこれを止める。倒れた保谷くんからボールを奪おうとジャッカルに入ろうとするのは榎くん。でもその手を薙ぎ払うようにボールを確保していくのは寺島くん。このプレーをオーヴァーという。

みんな、顔を強張らせてはいるのだ。でも、ファイトは惜しまない。

寺島くんが相手をクリーンアウトした、そのボールを押さえた佐伯くんが、次の一手を探る。右の背後に円城寺くんがいる。

「えんちゃん! タテに行け!」

佐伯くんからの小さなパスが円城寺くんへ。ボールを胸にした彼は、その瞬間に表情を一変させた。赤みを帯びた額と食いしばった口元、そして決意を漲らせた目。

円城寺くんを止めに来るのは、今福くんと風間くん、二人の二年生だ。円城寺くんは、今福くんをターゲットに選んだ。その胸元に、全力で踏み込む。今福くんにも意地がある。身体をのけぞらせながら突進を止めた。けれど、円城寺くんの足は止まらない。低く、低く、低く。風間くんもそのゆっくりした、そして粘り強い前進を押し止めようと頭を低くしてモールに入る。そして一人、もう一人。

円城寺くんは闘い切った。ゴールラインまで、自分の足でボールを運び切ったのだ。佑子は見ていた。密集の中で、ものすごい声を上げながら前進しようとする彼の、今まで見たことのないような表情を。ゴールラインになだれ込んだときの、一瞬だけの歓喜を。