真っ暗な老人ホームの建物に照明が当てられた。

「ここのようですが、もう誰もいないのかもしれませんね」

建物の外から人の話す声がする。お米さんたちは、また債権者が来たかと身構えた。玄関のドアをガチャガチャ開けようとする人がいる。大勢のようだ。

「鍵がかかっていますが、誰か中にいるようですよ」

お米さんが仕方なく玄関のドアの鍵を開けると、急にライトに照らし出された。こんな遅く、近くのイベント取材のついでにとテレビ局のニュース班と新聞社の記者が立ち寄ったという。

照明に浮かび上がったのは、『ここは私たちの命。奪わないで!』『真の債権者は私たち』『助けてください』と書かれた段ボールのプラカードを掲げた老人ホームの住人だった。カメラのフラッシュが焚かれ、昼間のように明るくなった。

翌日の新聞やテレビで『倒産した老人ホームに、どっこい踏ん張る高齢者』とでかでかと報道され、『なでしこの里』の電気も復旧した。マスコミの報道で、今まで働いていた従業員の何人かが戻ってきてくれ、弁護士の甥も駆けつけてくれた。

でも経営者がいない。このままでは老人ホームを閉めてみんな出ていかなければならないと困り果てたとき、お米さんの携帯が鳴った。

「えっ、三千万円で売れた!」

お米さんは飛び上がった。質屋さんがネットオークションにダイヤを出してくれて、三千万円で落札されたという連絡だった。

「死んだ亭主が『アフリカで俺が掘ったダイヤモンドだから本物だよ』ってお土産にくれたもの。大ほら吹きで好き勝手に生きた人だったから、信じちゃいなかった。でも本物だった」と涙ぐんだ。

『なでしこの里』はお米さんが新しい出資者で、ボランティア団体も加わり再スタートすることになった。自分でできることは自分でやってみる、自分でやれたらご褒美も出る、カルチャー教室で作ったものはバザーで安く売る、新しいやり方の老人ホームで、みんな自信を取り戻したみたい。

良かった、良かった。七十代、八十代、人生まだまだこれからだ。