俳句・短歌 句集 2022.03.02 句集「八ヶ岳南麓」より三句 句集 八ヶ岳南麓 【第52回】 浅川 健一 八ヶ岳の麓で暮らす医師の、四季折々の俳句集 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 総出して稲架満載にして帰る 拡声器手に積み上ぐる青蜜柑 紅に山々明くる冬菜畑
小説 『曽我兄弟より熱を込めて』 【最終回】 坂口 螢火 用意した死に装束を、我が子に着せる。まだこんなに小さいのに、斬首だなんて…私が身代わりになって死にたい! 青天の霹靂とは、まさにこのこと。聞いた母の驚きは尋常のものではない。「エ――エッ! 何と、何とおっしゃいます!」声さえ別人のごとく裏返って、「厭です! 厭です! 渡しません、断じて……」絶望的な悲鳴を上げ、曽我太郎に取りすがって泣きわめいた。その母の絶叫に驚いて、一萬と箱王が「母上! いかがなさいました」と座敷に駆け込んでくる。「オオ――一萬、箱王」母は無我夢中で二人を左右にかき抱くと、黒髪を振…
小説 『ケルベロスの唄』 【新連載】 佐々木 啓文 フロリダに住む日本人。車内ではドアロックをかけ、短銃を膝の上において待機する。以前、トラックに乗った若者に銃を向けられ… まだいまも軽い耳鳴りがする。それに、いつもより嗅覚が一層鋭敏になっているせいで、思わず顔をしかめて息を止めた。さっき車を降りたときに見た月は、確かにほのかな火薬のような香りがした。そして、スパイシーなムスクの香水と、黒人女性のデリケートゾーンに塗られたローズ系のデオドラントなどが湯に溶けて混ざり合い、古い壁画の記録のように染みついた脇汗の臭いに熱されて乾いたものが、止めた呼吸の血流に紛れ込んで体…