鳥の唄と雨の唄
「ためて。ためて。まだガマン。いくぞ。ゴー!」
ユニフォームの納品に来てくれた緒方さんが、納品だけではガマンできずに、バックスのラインアタックの指導をしてくれている。スタンドオフに足立くん、インサイドセンターに澤田くん、そして、入部届けを出したばかりの椎名くんがアウトサイドセンター。両翼には左に前田くん、右に風間くん、フルバックに今福くんが控える。
特に最近入部した三人はまだ未知数で、サッカー部のゴールキーパーだった今福くんのキック力に期待するだけ。あとは未定。だけど、ティームとしての構成を試そう。足立くんの発想はそこまで。ただ、まだオドオドしているような、学校の体操服に、部室に転がっていたOBのスパイクという出で立ちの椎名くんが、けっこういい。
「和泉先生、あの子、椎名くんって、ホントに始めたばかりなんですか?」
体力がなくて、すぐにあごを上げて弱音を吐くのだけれど、何だかリズム感がいいのだ。上手くハマると、絶妙のタイミングで出すパスが、前田くんや風間くんを気持ちよく走らせる。派手なランニングプレーだけじゃなく、例えば走り出す時の足の配置だとか、ポジショニングだとか、何も知らないから、本人には余計に新鮮なのかもしれない。
「シーナぁ。もうゲロかぁ」
澤田くんは、割と容赦ない。本当に吐くわけじゃないけど、息をあげてうずくまる椎名くんに、佑子は最初、かなりとまどったのだが、傍に寄って声をかけると、見上げる目がうっすらと笑う。楽しんでいるのだ、自分の限界を少しずつ上げていける毎日を。
「みんな頑張ってますね、和泉先生。この様子を話すとね、ウチの奥さん、すぐにバルちゃんに電話しますよきっと」
緒方さんは、額の汗を秋風にさらしながら、そう言って笑った。別の日には基が顔を出した。もっぱらフォワードを鍛えることに集中するのだけれど、グラウンドが広く使えない日だって多い。すると、基はバックスのメンバーにもスクラム練習を強いるのだ。
「ラグビーは、スクラムだ。スクラムが強くて弱いティームはあるかもしれないけど、スクラムが弱くて強いティームは、ない。バックスも、スクラムで闘わなくちゃ」
円城寺くんは体重九〇キロ以上。大磯東最重量の部員だが、どうしても西崎くんに勝てない。でも、あきらめない。
「えんちゃん。まずアゴを引け。背筋を伸ばせ。その体幹の重みを、真っ直ぐ腰に乗せるんだ。そう、それでヒザためて」
クラウチ、バインド、セット!