鳥の唄と雨の唄

「中身、って何だよ」

椎名くんは本当に、保谷くんの言う中身とは何かを問い質そうとしているようだ。もし今、佑子が同じ問いをぶつけられたら、ちょっと困る。

「それを見つけるのが、部活じゃんか」

ミッキー、カッコいいねえ。そんな半分からかうような声も聞こえたが、保谷くんはおかまいなしだ。

「お前ら、山岳同好会だろ。年に数回しか活動してないんだろ」

大磯東高の部活動は、三十以上ある。生徒の部活動加入率は八割を超えるというのが公式の数字ではあるのだが、実態はといえば、日常的な活動がほとんどない部もあったりする。幽霊部員どころか、幽霊部活だってあるぐらいだ。ラグビー部だって、足立くん一人の時にはそれに近かったわけだし。

佑子の知るかぎり、今年度の山岳同好会の活動は、春の鎌倉アルプス行だけだ。アルプスとは言っても、鎌倉市街地の外縁を巡る低山ハイキングで、山岳どころかお散歩に近い。資料を見れば以前は北アルプス縦走なんていうこともやっていたらしいけれど、現在の山岳同好会の顧問は部員の少なさにすっかりやる気をなくしているみたいだ。今の部員はトレーニングルーム前にいる三人だけ。

そうした背景を含めて、保谷くんは言うのだ。

「じゃあ、一緒にラグビーやらねぇか?」

椎名和輝かずきくん、大前わたるくん、岩佐雄吾いわさゆうごくんの三人が、その日に新ラグビー部員候補になったのだった。