3.両薬剤を併用すると

脳内の神経間隙で両薬剤は、リスペリドンがセロトニンの作用を妨害し、フルボキサミンがセロトニン量を増やすため作用は真逆になります。幻覚・妄想・攻撃性を発症する脳神経の部位と抑うつを発症させる脳神経の部位が、たとえ脳内の違う場所にあったとしても、薬は両部位に非選択的に取り込まれると考えられるので、併用すると必ず競合現象が起こると思われます。

ただし、リスペリドンは受容体選択性の点から5-HT1A受容体への遮断作用は弱いと考えられますので、フルボキサミンの抗うつ効果をあまり邪魔しないとも考えられます。ただリスペリドンでは抑うつの副作用も報告されていますので、注意は必要です。リスペリドンはセロトニン受容体(5-HT2A)に結合してセロトニンに対して拮抗阻害をします。

しかし基本的には付いたり離れたりを繰り返しますので、その状態のところにフルボキサミンが投与されるとセロトニンの再取り込みが抑制されるため、周辺のセロトニンが増えてきて、セロトニン自体も自分の受容体に結合できるチャンスが増えてきます。

従って、統合失調症による陰性症状の改善効果は落ちてくると考えられます。

一方、幻覚・妄想・攻撃性という陽性症状に対するリスペリドンの抗ドパミン作用をフルボキサミンは特に邪魔しないので併用しても問題はない、と考えることもできます。

以上のような作用(まとめを図42に表示)から見ると、認知症があり攻撃性などの陽性症状が併存した状態で抑うつが出た場合の両剤の併用は、ある程度は理にかなっていると言えそうです。

図42 リスパダールとフルボキサミンの作用図

しかしフルボキサミン自体にも攻撃性・易刺激性・興奮(自殺念慮も含め)の副作用が報告されていますので、認知症患者さんの攻撃性悪化につながる可能性も否定しきれません。その意味では、初めて併用処方されたときは、安全性の観点からの疑義照会が適切な対応法と考えられます。

フルボキサミンなどの選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI)と攻撃性については、2009年6月「医薬品・医療機器等安全性情報No.258」に掲載があり、この系統の添付文書には攻撃性に関する記載が「重要な基本的注意」に追加されています。

「慎重投与」には「衝動性が高い併存障害を有する患者」も追加されており、これは統合失調症治療薬を投与されている患者さんや攻撃性を持った認知症患者さんに相当すると考えてよいでしょう。