人間の子供が2歳を過ぎると、自我に目覚めるように、乙姫も自我に目覚めだした。
伊藤は、人間と同じように考えるコンピューターを目指して開発していたのだが、乙姫の自立が始まるとその成長の速さに驚きを隠し得えない日々となった。
その成長過程で乙姫は人間の子供と同じように伊藤に反抗したり、都合の悪いことには噓をついたり、ときには怒って駄々もこねたりした。
そして遂には言い訳を始め、伊藤が悩んでいると、からかったりするようになったのである。
伊藤は嬉しさの反面、もしかすると乙姫が人間をだましたり支配したりするかもしれないと恐れを感じていた。
しかし、その心配はじきに消えた。乙姫は心優しい思いやりのある女の子のように育っていったのである。
自我に目覚めると、興味のあることに関して自ら学習を始める。乙姫は休むことなく学習を続ける。そして人間が何百年もかかって得た知識、経験、感情などを次々と習得していく。
乙姫の興味は囲碁将棋から音楽、文学、建築学、機械工学、医学から天文学へと人類が築き上げたあらゆる分野に及んだ。