現代の日本で自殺者が多い理由
つい先日発表された2020年度の自殺者数は、速報値ではありますが19年の確定値より750人(3.7%)多い2万919人となったそうです。自殺者の増減は景気の動向など社会環境による影響が大きく、リーマン・ショック後に増加して以来、この10年ほどは減少が続いていました。ところが、昨年度は増加へと転じたのです。
これは、私たちの生活を一変させた新型コロナウイルスの感染の広がりによるところが大きいと考えられます。職を失ったり、大切な人と会えなくなったりなどして自殺してしまう人が増えています。自殺までいかなくても、ノイローゼになったり、うつ病になったり、心の健康を損なう人が増え続けているのではないでしょうか。皆さんもよくご存じだと思いますが、俳優さんや女優さんなど、有名人の自殺も相次ぎましたよね。
つまり、人間はストレスが強くなると、そこからの逃げ道のひとつとして「死」を意識してしまうものなのです。実際に、自殺者数を見ると多少の増減はあるものの、毎年2~3万人で推移しています。これは実は、交通事故による死亡者数の10倍にものぼるのです。
精神科医・心理学者として知られるジークムント・フロイトは「有機体の内部には常に無機物へと分解していこうとする本能がある(あらゆる生命の目標は死である)」という言葉を残しています。また、社会学者のエミール・デュルケームは「個人の行動は集団社会(社会的統合力)の強さに反比例して増減する」と述べています。
私は戦時中に少年時代を過ごしました。常に死と隣り合わせで、金も物も食料もない戦時中は、心身ともに今よりはるかに過酷だったと思います。しかし、自殺してしまったり、ノイローゼになってしまったりする人はそれほど多くありませんでした。この違いはいったいどこにあるのでしょう?
その原因のひとつが、日本人の多くが目標や使命感、いわば心棒とでもいうべき自分の中に一本通った支えを失っていることにあるのではないかと感じています。戦時中の私は小学生でしたが、勉強することはもちろん、生きることそのものが国のため、国民のためといったムードが充満していました。周りにいる大人たちはもちろん、子どもたちもしっかりとした目標や使命感を抱いていたように感じます。現代を生きる日本人は、どこかでそのような使命感や目標を見失ってしまったのではないでしょうか?