いたずらな運命~信頼とエゴの狭間で~

脚本は、うつ病患者が立ち直っていく話というより、楽しい病院生活を描こう、と決めた。映画化がタブー視されかねない精神病院での生活を、楽しく描こうと思った。

さえない男が、悪い人間たちにお金を騙し取られ、やがてうつ病になる。精神病院は苦しい場所と思っていたが、主人公はそこで、個性豊かな人たちに出会う。自分を、言うなれば、王様と本気で思っている中年男。豪邸に住みながら、愛人に追い出された哀れな女性。やくざとやり合ったが、一文無しに追い込まれた大男。浮いた噂が命取りになった元政治家。英断があだになった女社長。

人生、塞翁が馬と思う俺の考えを結実した作品だ。言うなれば、そんな人生の縮図のような人たちに出会って、話を聞いているうちに、主人公は思いもよらず楽しく病院生活を送る。

だが、そこで大きな事件が起こる。大変な数の患者が一斉にいなくなるのだ。何が起こったかを、主人公たち個性豊かな患者が、調べてゆく。難事件に立ち向かう刑事のように、鋭い、いや、おかしな推理を互いに交わし合う。

脚本を詰めていくのに、困難なことはただ一つ。精神病院が舞台だということ。取材は不可能に近い。ただ、監督の奥さんへの見舞いという、嘘の理由で入り込み、もちろん見舞いなどせずに観察することで解決できた。

映画には楽しさが必要だ。だから、悲観的な日常は排除した。映画にしたら楽しめるように、最大限考慮して書いた。結局、病院から姿を消した患者たちがある患者によって、いわゆるマインドコントロールされていたことが大量失踪の原因だったと判明し、無事病院に戻ってくる。

主人公たち患者が、刑事より先に居場所を突き止め、解決する。この事件解決によって、生きる価値を見いだした主人公たちは、精神の安定をとりもどすと、やがて退院して、それぞれの生活に戻っていく。そして、入院前には考えられなかった大きな生き甲斐を見つけていった。