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究極の選択
益田医師は、苦痛で顔を歪めることの多くなった和子さんを診ながら、どのタイミングでモルヒネの使用を切り出すか、思いあぐねていた。彼女は、往診中の会話の中で、
「先生、私ね、麻薬はあんまり使ってほしくないわ。どうしても痛いときは仕方ないけど、使うと頭がボーっとしちゃうでしょ。そんなことになったらお父さんと話もできないから、それは困るの。でも痛そうにしてたらとか、打ってもらおうかどうか迷ってるような感じだったら、先生、うまく麻薬使ってね」
「そんなに頭はボーっとしないと思いますよ。麻薬は痛みを軽くするだけに使うのですから、頭がボーっとしないようにさじ加減をするのが私の役目なんですよ」
と、それとなくモルヒネの使用に関して、抵抗感を表現していたものの、最後の判断は益田医師に委ねるという意思表示も示していた。
敬一さんからの要望や、和子さん本人も痛みのことをそれまで以上に口にするようになったこともあり、益田医師は主治医になってから2か月目くらいからモルヒネであるMSコンチンを20ミリグラムから使い始めた。
痛みを訴えることは少なくなり、呼吸も穏やかになったが、口数は明らかに減った。
モルヒネを使用して2週間くらいから目に見えて食欲が落ちてきた。3か月も経ったあたりから、自分からは食事を口にしなくなった。穏やかそうに見える呼吸であるが、酸素飽和度は常に80%前半で、呼吸不全はかなりよくない状態になっていた。