Ⅲ 小さな薔薇

部屋に入ると暖房が効いていて暖かかった。クローゼットにあるハンガーは日本のそれと使い方が異なるのでリヤードにそれぞれのコートをかけてもらう。私はイヤリングを外そうとして耳たぶを触る。と、ない。イヤリングがない。両耳とも綺麗に落ちている。彼が何度も私を抱きしめたのですっかり外れてしまったのだろう。私のお気に入りのゴールドのちょっと大きいハートのイヤリング。「あなたが悪いのよ」と言ったけれど私の英語は通用しないようだった。でも、事情はわかったようで、「僕が帰りの道々探そう」という手振りをしていた。

そして彼は、あっという間の早さでシャツを脱いで肌着になり、ポーンとベッドに沈み込むと、「Hey! Common!」と右手の人さし指と中指を揺らして私を呼ぶ。あっけにとられた私はある種のショックを受けるも、首を傾けながらまずバスルームを指さすと、彼は、「あ、わかった」という表情をした。しかし、困ったことに私の着替えやコスメティックが入っているランジェリーバッグの上に彼はシャツを脱ぎ捨ててしまっていた。仕方なく私は脱いだニットワンピースを、バスルームからぽいっと出しっぱなしのバゲッジの上に放り投げる。

シャワーを浴びて肌着を着け大きなバスタオルとともに出てくると、彼が「Oh!」と小さく声を上げる。部屋の明かりを消すと、また「Oh!」といちいち反応した。私は冷静だったのかな、自分のバッグにちゃんとパスポートがあるのを確かめて、そっとベッドに入った。そしてすべるように彼の隣に横たわるとブランケットを首まで引き上げた。

牡丹散るやうに抱かれて水の秋