カレーライスの思い出
女子高一年の夏休み、学校でキャンプに行った。同級の朋子と私と二年生二人とで一つのグループになった。その日の夕食はカレーライス。各テントに先生が食べに来る。私たちのグループのテントにはナッチャン。人気者の若い体育の男の先生だ。
カレーは先輩が張り切って作ってくれた。後輩は野菜を洗っただけである。テントの中、一年生と二年生が向かい合い、一番奥にナッチャンが座った。みんなで「いただきます」。一口食べた。
「苦い! 何だろう?」。全員のスプーンが止まった。先輩武田さんが宮沢さんに聞いた。
「ねえ、とろみをつけると言って小麦粉を入れたとき、粉末洗剤と間違えなかった?」
とたんにナッチャンはテントを飛び出し、吐きに行った。宮沢さんは、
「私、小麦粉をビニールの袋に入れて持ってきたの。それ使ったよ」
「私も洗剤をビニールの袋に入れてきたよ」
と、武田さん。
「白い粉の台所用洗剤だから、小麦粉とまちがいやすいかもしれないけど」
と言いながら、武田さんは荷物をごそごそ探している。
「これ、あっ、減ってる!」
「えーっ、間違えちゃったんだ! 白いから小麦粉だとばかり思っていた」
「水に溶いたでしょ。泡が立たなかった?」
「だってそうっとかき回したもの」
もう朋子と私は笑い転げた。先輩たちも笑いだした。テントの外は大騒ぎ。ナッチャンが吐きに出たことで、ことがばれて保健の先生が駆けつけた。
「お腹痛くない?」
「痛くない」
答えながら、私たちは笑いすぎて涙目である。他のテントの子がこわごわと覗きに来る。
「かわいそうに、お腹が痛くて泣いてるよ」などと言っている。
違うのだ。こんな漫画みたいなことが起こって、その真ん中に自分たちがいることが、奇妙で、おかしくて、笑いが止まらないのだ。もしかしたら今頃、洗剤が泡立ってお腹の中を洗っているかもしれない。朋子がそっと言った。
「ナッチャンが帰ってこないね。お腹痛いのかな? 私たちのこと、心配じゃないのかな」
もう五十年も前の懐かしい話である。