大学業界が直面する諸難題:PDCAサイクル
大学を挙げた授業改革とその証拠をそろえるための教学IR活動、これらを円滑に運営させる方法だと言われているのがPDCAサイクルである。
元来、これは製造現場における生産管理手法として提唱された考え方であるが、教学改革のシンポジウムなどでスピーカーが登壇すると、必ずと言っていいほど耳にする単語である。
だが、文科省がPDCAサイクルの円滑な履行を求めるということは、これまで各大学独自に構築してきた運営手法が半ば強制的に再構築させられることを意味し、多くの大学関係者から懸念の声が上がっている。
たとえば、古川雄嗣は
(1)人間の物象化、(2)経営学的な無理解、(3)トップダウンであること、
の3つの点からPDCAサイクルによる大学改革に批判的な検討を加えている(11)。
この懸念についてのこれ以上の言及は避けるが、組織変革をも含んだ文科省の大学改革の方針について、私の専門とする経済学の基礎理論の話からアプローチしてみよう。
代表的消費者は、利用可能な資源・情報を駆使して自身の効用を最大にするようにさまざまな選択を行う。
代表的生産者も同様に、利用可能な資源・情報を駆使して自身の利潤を最大にするようにさまざまな選択を行う。そして、それぞれの思惑をもって消費者と生産者が市場で出会い、さまざまなプロセスを経て取引が実現する。
そのもとで資源は効率的に配分され、消費者・生産者は当初の目的を達成できる。上記の話は完全競争とよばれる市場概念のもとで描かれるストーリーである。
もちろん、大学業界は厳密な意味での完全競争に該当しないが、この話において、大学業界を理解する上で重要な点が3つある。
1つ目は消費者・生産者の選択に政府が関与しない点。
2つ目は政府が関与すれば消費者・生産者の行動が歪められ、社会にとって望ましくない結果を招きかねない点(例外はある。教育がその1つ)。
3つ目は政府が直接関与しなくても、消費者・生産者が資源・情報の取り扱いを間違えると早晩市場からの撤退を余儀なくされる点である。