八月〜十月
待ち合わせ時間の数分前に小田急線代々木八幡駅に着いた。
さて、あいつはどこにいるのだろうと探すと、すでにそばにいた。それほど驚かなかった。慣れというのは恐ろしい。
連絡先も交換していないが、こいつは必要な時に俺を見つけてくれるだろうと安心しきっていた。もし俺が何かの都合で行けなくなったとしても、また会社からの帰り道で会える、という安心感があった。今の時代では信じられないことだ。
でも非合理かも知れないこの関係が心地良い。
「ついて来てくれ」
誘導されるまま歩き出す。今日は暑いのであまり外を歩きたくないが、彼は強い日差しも気温も気にしていないようだった。
太陽の下で改めて彼の姿形を観察して、彫りが深く端正な顔立ちに同性ながら「美しい」と感心する。背も高いしスタイルも良い。この顔で原宿やこのあたりを歩いていたら、しょっちゅうスカウトされるんじゃないだろうか。
五分くらい歩いて、こぢんまりとしたカフェに到着した。中には欧米人が多く、俺が学生時代バイトしていたチェーンのカフェとは雰囲気がだいぶ違う。
卒業旅行でヨーロッパに行った時、入ったカフェはこんな感じではなかっただろうか。ここでこいつとお茶しながら相談に乗るのか?などと考えていると、
「中に高校生の女の子が一人いる」
予想外の言葉が桃から発せられた。ガラス越しに店内を見回すと、確かに若い女の子が一人いて、本を読んでいるようだ。私服姿でかなり明るい髪をしているので、言われなければ高校生だと分からなかっただろう。
こういうヨーロッパ風のカフェに高校生が一人でいる光景に、違和感と興味を覚える。
一体どんな子だろう。ガラス越しなのではっきりとは見えないけれど、髪の色からいわゆるギャルの部類に入るのではないか。
「あの子知り合い?」
桃は直接は答えず、
「あの子を助けて欲しいんだ」
声には切実さが感じられたが、言葉の意味は分からない。
「どういうこと?」
「あの子は少し問題があるんだ。いや、そう言うと本人の性格に問題があるように聞こえるがそういうわけじゃない。今の環境があの子に合っていないと言うのか……」
適切な言葉がみつからないようだった。しかし言わんとすることは分かってきた。