いたずらな運命~信頼とエゴの狭間で~
監督に連絡をし、事務所を訪れた。
全ての疑いがなくなることを期待しての行動だった。
今まで俺は、自ら、計画を立てたことはなかった。常に監督が主導権を握っていたからだ。
ただ、今回は、
「映画向けじゃない理由を教えてください」
と、迫った。納得できる理由が聞きたかった。
監督は言った。
「一作目は、コミカルで楽しい内容だった。二作目は、感動的で素晴らしい内容だった。だが、この三作目には客を惹きつける要素がない。映画化には金銭的なことが絡むから、この内容では客は呼べないと思う。それが理由だ」
俺は、また単刀直入に聞いた。
「俺が前科者だから、信頼に値しない、ということじゃないのですか?」
「それは違う。君が前科者かどうかなんて、芸術には関係ないことだ。ただ、私が映画化したいか否かが理由だ」
と言う監督の目が、俺を見ていないことは確かだった。大きな何かが、俺たちを引き裂いていったように感じた。それに、『信頼』という言葉が監督の口から出なかったことが、気にかかっていた。俺は、思った。正確には、思った、というより、感じ取った。
監督は、何か隠している!
何かはわからないが、監督にとって都合が悪いことだ。
だから、これ以上、関わらないことが俺のためだとも思った。だが、それは無理だというものだ。
俺は、監督に話そうか迷いながらも、言葉が口をついて出てしまった。
「俺に関わる気がしないのは、監督さんに何かあったからではないですか?」
監督は、やはり俺を見ないで言った。
「大きな仕事をする気に今はなれないことは、事実だ。君のせいではなく、私の事情だ」
疑いがまた持ち上がった。何が監督にあったのか? 聞きたいが、聞いていいのか? 思ってもいないような災難があったとしたら、どうしたらいいのか?
監督の苦しそうな顔を見た瞬間、やはり、聞こう!と心を決めた。
「何があったのか、教えてください」
監督は言った。
「まだ言う気になれないから、話したくなってからでいいかい?」
「今、言ってください!」
俺がこのままでは立ち去ることもないと思ったのか、監督は重い口を開いた。