究極の選択

さて化学療法の効果もなく、転移性骨腫瘍も再び増大し、和子さんはまた歩けなくなってしまった。特に肺の症状がない彼女にとって、下半身のしびれがもっとも心が折れる症状なのである。しびれて、力が入らなくて歩けないことが、今彼女が最も苦しい出来事となっている。

原発が肺ガンであるとかどうとか、そんなことには今あまり関心がなかった。効果がないと言われた放射線療法を実施してもらうかどうか、彼女が決めたらいいと、敬一さんは和子さんの意思を尊重してあげたかった。和子さんが放射線療法を受けると決めるのか(選択1)あるいはそうしないのか(選択2)悩ましい時間が過ぎた。

【ワンポイント解説】

・イレッサ

一般名ゲフィチニブ、イギリスのアストラゼネカ社が開発し、世界に先駆けて日本で承認された分子標的薬である。ガン細胞の増殖を促進するチロシンキナーゼという酵素の働きを阻害する。当初は、効果が高く副作用が少ない画期的な抗ガン剤として注目されたが、副作用などに対する十分な認識がないまま安易に投与されたケースもあり、間質性肺炎による死者が相次いで問題となった。

・腺ガン

腺ガンは、病理組織的な分類である。原発臓器による肺ガンなどとは異なる名称である。いわゆる腺組織から発生したガンのことをいう。腺組織というのは全身にいろいろあるため、胃ガンや大腸ガンなども腺ガンであることが多い。一般的に腺ガンは、抗ガン剤治療も放射線治療もあまり効果がない。