プライベート出産体験の語り

では、実際に医療の対極にあるプライベート出産は、どのような出産体験となっていたでしょうか。

インタビュー協力者によるほとんどのプライベート出産は、夫(子どもの父親)の理解と協力によって夫の立会いのもとに行われていました。本人より子どもの父親の方が先にプライベート出産の情報を得、プライベート出産の選択に積極的に関与した夫婦も少なくありませんでした。

インタビューには子どもの父親の半数以上(17名)が自主的にその場に同席されており、プライベート出産への子どもの父親の積極的関与の様子が窺えました。

主に第2章でプライベート出産を選択した動機を紹介した方や、本章の第1節で紹介した出産時に異常が起こった方を中心に、本人もしくは夫の語りを紹介します。

生活の営みの中で行う出産に意味を見出したA・Cさん

A・Cさんは、万が一自分か子どものどちらかが死に至っても、自分たち夫婦で選択し、決定したことが重要と考え出産に臨みました。ところが、第1子のプライベート出産は40時間におよび、疲れて最後は上体を起こすことさえできない状態になってしまいました。しかし、力が抜けたことで子どもの生まれる力を感じたこと、そして身体に侵襲がなかったことを、このように語っています。

「(最初は)陣痛がきたときに、わざとそこにぶら下がってみるとか、わざとしゃがんでみる、わざとスクワットしてみるとか、もうめっちゃアクティブにやってて……」

「もうここにこうやってもたれてるだけだった、最後は。ほんであとはもう本当、いきみも、さあいきんでとかじゃなくて、もう勝手に体がいきんで○○○(子どもの名前)が押してきて、ああ、いきみってこうやって勝手に体から出るもんなんだって。会陰も切れなかったし、本当にゆっくり生まれましたよ」

A・Cさんは、頑張って早く産もうと、最初は本などで得た知識をいろいろ試していたけれども、最後はいきむ力はなくなっていました。しかし、そのことで、いきみは自分の意図で行うものではないことを体感し、出産とは自分が産むものではなく、子どもが子ども自身の力で生まれてくるものだと理解しました。そして、ゆっくり生まれたことで、会陰に傷ができなったことも強調していました。

この出産は破水から始まりました。対処方法がわからず、助産師の大本さんに電話で問い合わせました。大本さんの声に励まされ安心したA・Cさんは、大本さんを「こころの助産師」と言い、「プライベート出産には大本さんの存在が心の支えになった」と話していました。