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マニラを訪れる人たち
フィリピン人には音楽の才があり、歌手やミュージシャンとして世界を舞台に活躍する人が多い。その理由としてフィリピン人は耳がいいからだと言われている。耳がいいということは語学の習得にも有利だ。彼らが流暢な英語を話せるのも、日本人よりはるかに少ない努力で他の外国語をマスターできるのも、持って生まれた耳のよさから来ているのだ。
「楽器は何を演奏されていたんですか」
「私、ギタリストでした」
「今も演奏しているんですか」
「今はガイドの仕事だけ。フィリピンでは音楽だけでは食べていけないよ」
「月に何本くらいツアーの仕事があるんですか」
「今は少なくなったね。ひと月に二本か三本くらいかな。日本から帰ってきた頃はすごく忙しかった。毎日毎日仕事で休みなかったよ」
例の買春ツアー騒動で仕事が激減したらしい。
「ジェフリーさんが日本へ行った頃って、日本のビザを取るのは難しくなかったんですか」
「昔は今みたいに厳しくなかったよ。今は難しいね。でもお金さえ出せば、パスポートもビザも買えるらしいよ」
この年は「じゃぱゆきさん」という言葉が週刊誌で使われ出し、フィリピンから日本へ向かうフィリピン人女性が目立ち始めた時だった。買春ツアー問題でお客を失ったホステスたちが、お客を求め逆流しだしたのだ。その裏にはフィリピンには送る側の日本には受ける側の組織とノウハウができあがり、一つのビジネスとなっていった。
「今フィリピンには仕事ないよ。だから男はサウジへ女は日本へ、仕事しにたくさん行っているよ。行きたくても行けない人もいっぱいいるよ。みんな仕事が欲しいんだ。これは政府の責任だよ」
街中で何もせずぼーっとしている多くの若者を見るにつけ、失業者の数は相当多いのだろうと想像できる。
「ペソの価値も最近下がっていますよね」
「だからこれから物価も上がるよ。今のフィリピンはダメね。マルコス大統領とその周りの人たちだけお金持ちになる」
ジェフリーはツアーの数は少なくなったとはいえ、ガイドの仕事があるからいい方なのだろう。ここ数年の失業率は急速に上昇し、国民は仕事を海外に求めざるを得なくなっている。政府の抱える対外債務残高は二百億ドルに迫る勢いだ。正にフィリピンという国は破綻に向かって突き進んでいた。