目を覚ますと、夜明けがきたようだった。デスク上のデジタル時計に目をやると、6:00だった。武士が作ったメロディーが、心地よく体にしみこんでいる。なんだか嬉しくて、武士に早く会いたかった。窓の外では、小雨が降っている。
望風:おはよ
望風:学校いっしょいこ!
望風:奏多で待ってるねー
武士:雨降ってんぞー
武士:迎えに行くよ
望風:うん
望風:待ってるね
望風は、心弾ませながら、ふわふわのチュチュのついた水色のお気に入りのスリッパで、リビングへ駆け下りた。トーストのにおいがした。十人掛けのリビングテーブルには、四つのデニム地のランチョンマットが椅子ごとにおいてあった。スープ皿も用意してあった。
洗顔して、トイレに行って、部屋に戻って、制服に着替えた。鏡の前で、リップの色を少し悩んだ。朝食は、たっぷりの生クリーム、キウイ、バナナのサンドイッチとレタス、クリームチーズ、生ハムのサンドイッチが円くて平らな籠皿のペーパーナプキンの上においてあって、じゃがいものポタージュと、ヨーグルトをママが用意してくれた。
「ママー、このサンドイッチ余分にある?」
「あるよー。どしたのー?」
「武士と学校行くのー。武士の分も持ってってあげよっかなー」
「詰めてあげるねー」
望風は、ママの可愛いところが大好きだった。嫌なことがあって帰ってきても、いっつもキュートな笑顔でおいしい料理をだしてくれる。望風は、その間に部屋に戻って、オレンジレッドのリップスティックを手に取った。グロスでふわふわに仕上がった唇で、望風は、窓の外を見た。黒くて大きな傘が玄関前で広がっている。武士に気づき、らせん階段を駆け下りた。ママが渡してくれた紙袋を持って、とびっきりの笑顔で、武士の腕にとび込んだ。