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心が揺らいだ時、いつも背中を押してくれたのは妻だった
一カ月前から、空腹になると胃が痛くなる。
『今日は医者に行こう』
と今まで何回か考えたが、延び延びになっていた。今日こそはと思ったものの、朝の七時になっても朝食の用意をわざとしなかった。
『これでいい』
と本気で行く気になる。九時の開院まで時間がある。
昨日は金曜日で京子の風呂の日だった。バスタオル三枚と手ぬぐい、パジャマ、靴下など、持ち帰った汚れ物を洗濯機に入れたが、洗剤がなくなっていることを忘れていた。九時にならないと店が開かない。洗濯機に湿った洗い物を突っ込んでおくと、カビが生えそうなので取り出した。
鏡に映った自分の顔を見た。やつれて、顔色が悪いということもない。髪が伸びてきているだけだった。散髪屋の開店時間を一旦、居間に戻って財布に入っているポイントカードで確認した。これも九時からで時間が重なっている。
空腹の絶頂時なのに胃痛が起きなかったので、しばらく様子をみることにした。九時前になってもやはり、胃痛が起きない。病院はやめにした。妻が元気なら私の不安を煽って病院に行かせるだろう。
私の心が揺らいだ時に、いつも京子の背中押しがあった。それで病気が見つかったこともある。会社では他人に助けてもらい、家では京子に全面的に依存していたのだと、当時はそれさえ考えつかなかったことが、今では私の苦笑いの種になってしまった。
少し遅くなったが簡単に朝食を済ませた後、洗剤を買い、その足で散髪屋に行くことにした。
病院に着くと午後二時を回っていた。
「散髪シタノ?」
京子は少し安心した表情を浮かべた。京子のためだけでなく、私自身のためにも、時間を費やしていることを確認して、安らいだ顔になったのだと推測した。
「イツモノ、時間ジャナクテ、大丈夫ダヨ。モット、遅クテモ、イイヨ」
やはり成功であった。私は微笑んで大きく頷いた。以前は、家で何をして過ごしているのか、日常のことをよく訊いてきた。近頃は、何時も同じと分かったのか訊いてこなくなっていた。
「妹がプリンを送ってきたよ」
「アノ、アナタノ妹サン?」
「そう、あの妹」
「面白イ方ネ」