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仕事に励むことで家族を守っていると思っていたが...
佐山さんの「妻を二度も失った」とは、自分の傲慢さで、男の人生計画に組み込んだことを、後悔しての言葉であったに違いない。妻自身が自分のために、生きようとする時の「本人の想いの決断」を委縮させて、花を散らしてきたということではないのか。私にも、京子との過去の生活の中で気付かないことがあったに違いない。でも、京子は笑っているだけで何も言わなかったのだろう。
もう遅いかもしれないが、今度こそ、私が支えてもらったように京子の人生を支えて、一緒に生きていかなければならない。気負いをなくして、自然体の日常の中で、京子と自分の心を、ストレスという破綻原因から防ぐことができるだろう。
具体的には何をしていいのか未だに分かっていなかった。少なくとも生きたままで、京子の心を失いたくなかった。妻の心だけでも自由にしてやりたかった。京子がいたからこそ、懸命に生きることができた。それは、難病を抱えて動けなくなった今でも、何ら変わりがない。京子とのコミュニケーションを失いかけて、改めて気付いた。
ある先輩から、「いつの間にか家族の繋がりと老後の生活を支えているのは妻になる。その妻に先に逝かれたら、男は困るぞ」と言われたことがあった。すっかり忘れて、再び思い出したきっかけが、京子の命が尽きようとしているという時期になってしまった。
『なんとかしなきゃ』
私の心が叫んでいた。ALSという病は、死の選択肢しかない上に、あらゆる人とのコミュニケーションを断ち切って、疎外感を植え付け、心の破綻までさせようと試みているのかもしれない。ALSは私を卑屈にさせてしまうぐらいの強靭さを持って、心の中で暴れてくる。