ピルシカイニドとベラパミルの頓用
心房細動の症例問題を検討していたときに出たある薬局薬剤師さんからの話で「心房細動の発作時頓用で、ピルシカイニドとベラパミルの2種類が処方されて、患者さんは自分でどちらか一方を試してみて、調子の良かった薬で頓服を継続してみてと医師から言われたとのこと。
しばらくしてベラパミルの方が調子が良かったというのでベラパミルの頓用に一本化された」という事例紹介がありました。そして「ピルシカイニドとベラパミルは、どのような基準で使い分けしているのでしょうか?」というその薬剤師さんからの質問が今回の話題になります。
本来なら処方医に処方意図を聞いてみたいところですが、薬理作用から見てどう考えればよいかという検討になります。
ピルシカイニドとは
不整脈治療薬のボーン・ウイリアムズ分類のIc群に属するNaチャネル阻害薬で、先発薬品名はサンリズムⓇカプセルになります。
Ic群はNaチャネルとの解離結合速度が最も遅いため、阻害効果がI群の中で最も強いとされます。そのため重大な副作用である催不整脈作用がIa群と同様に現れやすいとされています。ただIa群と異なり心臓外の副作用は少ないようです。
Naチャネルは心房、心室の心筋細胞に広く存在し活動電位を発生する際の最初のチャネルになりますから、I群の薬は頻脈性不整脈に広く利用されます。ただしIb群の薬はNaチャネルの不活性化ゲートを阻害するタイプで、不活性化状態にある時間が短い心房へは、その阻害効果が薄まるため主に心室性不整脈への適応となります(例えばIb群のメキシレチン「メキシチールⓇカプセル」の頻脈性不整脈への適応は心室性のみとなっています)。
心房細動は細動が7日以内で治まる発作性心房細動、7日を超えて持続する持続性心房細動、さらに長期持続性、永続性の4つに分類されます(2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン、以下ガイドライン)。
発作持続が長期にわたるとNaチャネル数が減少し、そのためかNaチャネル阻害薬では効果が弱くなるため持続性心房細動ではベプリジルやアミオダロンの選択となります(ガイドラインより)。
発作性心房細動の第一選択薬として利用されるのがNaチャネル阻害薬で、Tmaxが1時間程度のピルシカイニドは発作時頓用としても利用されます(ガイドラインでは他薬も紹介)。
心房細動の薬物治療には、心房細動自体を抑える薬理学的除細動の洞調律維持療法(一般にリズムコントロールと呼ばれています)と、心房細動で引き起こされる心室による心拍数の増加を抑える心拍数調節療法(一般にレートコントロールと呼ばれます)の2つがありますが、ピルシカイニドなどのNaチャネル阻害薬はリズムコントロールに利用されます。