第4章 フィオリーナからへロイーナへ
第七話 素質
この国から世界中へ、コカイン、ヘロイン、マリファナなどが密輸されている。密輸犯は麻薬を貨物の中にかくして送ったり、運び屋たちは、靴の中や下着の中など、見つかりにくい所にかくして、国外に持ち出そうとする。
中には、たくさんの小さなプラスチックカプセルに麻薬を入れて、それを飛行機に乗る前に飲みこむ運び屋もいる。後で便の中からカプセルを回収するのだ。これは運び屋にとっても命がけのやり方だった。もし、おなかの中でカプセルが破れたら運び屋の命は助からないからだ。
このようにいろいろな方法で密輸される麻薬は、ベテランの検査官でもなかなか見つけることはできない。そこで、活躍するのが麻薬探知犬だ。麻薬探知犬は、においで麻薬を見つけるための訓練を受けた犬のことである。
どんな犬でも訓練すれば麻薬探知犬になれるのだろうか? そうではない。素質を持った犬でないと、麻薬探知犬にはなれないのだ。
一番大切な素質は、一つのものを追いかける能力があることだ。すぐ飽きてしまうような犬は向いていない。
二番目に大切な素質は、遊びが大好きなことだ。麻薬探知犬が麻薬を見つけるのは、麻薬が好きだったり、依存症になっていたりするからではない。麻薬を見つけると、ハンドラーと呼ばれる訓練士が遊んでくれる。それが楽しいので、麻薬を探す。だから遊びが大好きな犬でないと、麻薬探知犬にはなれないのだ。そのほかにも、いろいろなテストに合格して、初めて麻薬探知犬になることができる。
この国の麻薬探知犬の中で一番優秀な犬が、アマリアという名前のラブラドールレトリバーだ。アマリアは麻薬探知犬になって七年目のベテラン犬で、去年、三百キログラムのコカインと二十キログラムのヘロインを見つけて、国から勲章をもらった。
しかし、このような優秀な犬は、麻薬ギャングにとっては敵だった。密輸しようとした麻薬が麻薬探知犬に見つかってしまうと、グループが根こそぎ逮捕される。しかも麻薬犯罪は重罪なので、何年も刑務所から出られなくなる。
困った麻薬ギャングは、アマリアの毛皮に一万ドルという懸賞金をかけた。アマリアを殺して毛皮を持ってきた人は、一万ドルもらえるのだ。金目当てにアマリアを殺そうと思う人は、大勢いるだろう。いつ危険な目にあうか分からないが、アマリアには、まだまだ活躍してもらわなければならない。
しかし残念なことに、年をとるとにおいをかぐ能力が弱くなってしまうので、麻薬探知犬は、八歳で引退することになっている。アマリアが引退する前に、後継ぎを作らなければならなかった。フィオリーナがへロイーナという名前をもらったのは、ちょうどそのころだったのだ。