そこで重要になってくるのが、医療崩壊を防ぐことです。病院のベッドが埋まり、高齢者や既往症のある患者が入院できなくなれば、直ぐに重篤化し、命を落とすことになります。こういう患者の治療には、まずは人工呼吸器が、そして更に厄介なケースにはECMOと呼ばれる先進医療機器が必要です。

これらの機器とそれらを設置する病室やベッド、そして操作できる医療従事者を十分に確保することが、医療を持ち堪えさせる生命線になります。そのためには、軽症の患者には退院してもらい、ベッドの空きを作って、来るべき重症患者の受け入れに備えなければなりません。

従って、ここに至っては、当初取っていた措置、即ち感染が確認されたら患者を全員入院させ、非感染者から隔離するという措置を転換する必要があります。軽症の患者は退院させ、しかしできるだけ軽症の患者だけで集まって特定の施設で団体生活を送ってもらうことが望ましいのです。この措置を可能にするため、国や自治体が所有しており、現在遊休化している公共施設を提供するようにします。

でも、これでも全ての軽症患者を受け入れられなくなると、最終的には自宅で待機してもらうことになります。感染者ができるだけ非感染者と接触しないよう注意を払いながら、同居してもらうのです。こういう自宅内隔離を安全かつ効果的に進めるためのマニュアルを用意します。

そして、感染拡大がある程度抑え込めたら、十分な医療従事者の監視の下、注意深く集団感染を誘導します。結局、この種のウイルスに対しては、殆どの人が感染して自分の身体の中に抗体を持たない限り終息しません。はしかや天然痘のように、今日ほぼ撲滅されている病気についても、全人類の約95%程度が抗体を持つようになったからこそ、抑え込めたのです。

こういう全体のシナリオを頭に入れると、今必要なことは、感染拡大の速度を落とし、感染者がそれぞれの症状に応じた最適な治療を受けられる体制を構築し、維持することです。そのためには、感染のメカニズムを正確に理解し、必要な節制を行うことが求められます。

新型コロナウイルスは、主に飛沫感染と接触感染で移ります。感染者が咳やくしゃみでウイルスを空中に撒き散らし、それを直接吸い込むか、若しくはその飛沫が付着した電車の吊り革や部屋のドアノブを非感染者が手で触り、その手で目・鼻・口の粘膜に触れると感染します。

新型コロナウイルスは、脂質を持った外膜で覆われているため、これには、消毒用アルコールによる殺菌と、界面活性剤を使った洗浄が有効です。従って、感染防止の基本は徹底した手洗いの実行になります。

因みに、マスクの感染防止効果は限定的です。家庭用に市販されているマスクは、着用してもウイルスを吸い込むことを防げません。これは、世界保健機関(WHO)やアメリカ疾病予防管理センター(CDC)も口をそろえて強調しています。認められている効果は、まだウイルスが水滴に付着していてマスクを透過しない状態、即ち感染者が咳やくしゃみをする時です。